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創業360年超「鍵屋」15代目は、花火と柔道のコロナ禍逆境にめげていない 

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茂野聡士

茂野聡士Satoshi Shigeno

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photograph byRodrigo Reyes Marin/AFLO

posted2020/09/22 17:00

創業360年超「鍵屋」15代目は、花火と柔道のコロナ禍逆境にめげていない<Number Web> photograph by Rodrigo Reyes Marin/AFLO

例年行われている江戸川区花火大会は「宗家花火鍵屋」が担当している(写真は2014年のもの)

創業1659年(萬治二年)の鍵屋15代目

 会社の正式名称は「株式会社 宗家花火鍵屋」。2019年に創業360年、つまり創業1659年(なお元号だと萬治二年)という歴史と由緒を持つ企業である。

 企業パンフレットの、14代目・天野修さんのあいさつにはこんな一節がある。

「夏の夜空をこがす大輪の花火は、見る人の心に焼きつく華麗な美しさと、一瞬ののちに消えていくはかない余韻を併せ持つ、誠に日本人の気性にあった芸術と申せましょう。それだけに、江戸の情緒を今に伝える鍵屋の花火で、花火本来の美しさ、音と光のハーモニーを感じていただきたいと思う気持ちはひとしおです」

 江戸と東京、両方の歴史を知っているからこその重みを感じる言葉である。その脈々と連なる伝統を引き継いでいるのは、15代目・天野安喜子さんだ。

北京五輪の男子柔道で主審を務めた実績も

 この安喜子さん、実はスポーツと深いかかわりがある。日本でも屈指の柔道家だったのだ。小学生の頃に柔道を始め、1986年の福岡国際女子柔道選手権大会で銅メダルを獲得したほどの実力者。そして「チャンスが巡ってきて」(安喜子さん)、2008年の北京五輪の柔道審判員に選出。男子柔道では決勝の主審も務めた実績も持っている。鍵屋の15代目を務めるとともに、「富道館柔道天野道場」の副館長も務めているのだ。

 花火に携わる15代目として、そして柔道の町道場を運営する身として、花火と柔道への思い、そして2020年の今をどう思っているのか――お話を聞かせてほしいというと、快く承諾くれた。

 まずは無礼を承知で、360年の歴史をものすごくかいつまんで教えてもらおう。

「創業当時は手元から噴き出す今の手持ち花火のようなものを『火の花』といって売り出していたんです。そこから屋号を受け継ぎ、私が15代目になりますが、その歴史の中では花火を丸くする技法を開発し、"RGB"の発色に成功するなど、技術の改良に努め続けました。また『スターマイン』の手法を海外から学んで、日本に持ち込んだのも弊社なんですよ」

【次ページ】 “花火大会の全体プロデュース”って?

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天野安喜子

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