スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
高度な投球術とブルペンの充実。
MLB、投高打低現象の新たな理由は?
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2020/08/29 08:00
今季初登板となった7月26日から1カ月で5勝1敗、防御率1.70の好成績を収めているダルビッシュ。
20代の頭脳派投手に注目。
なるほど、といいたくなるが、今季は7月下旬が開幕だった。球場は、序盤からすでに温まっていたはずだ。
短縮シーズンということは初めからわかっているのだから、「生きた球に慣れるまでに時間がかかる」という言い訳もやや苦しい。ほかになにか理由があるのではないか。
たとえば、投手側の変化が気にかかる。ダルビッシュ有と並んで私が注目しているのは、シェーン・ビーバー、トレヴァー・バウアーといった20代の頭脳派投手だ。
どちらも、いわゆる剛速球投手ではない。フォーシームの球速は90~95マイルといったところで、近ごろでは並みの数字だ。ジャスティン・ヴァーランダーやマックス・シャーザーといった旧来の剛球投手とは、まったくタイプがちがう。
「七色の変化球」を駆使できる投球術。
しかし、奪三振率は非常に高い。
コントロールのよいビーバー(46回3分の2を投げて75奪三振)はストライク先行の投球で打者を支配しているし、バウアー(32回3分の2を投げて49奪三振)は追い込んでからのカーヴやスライダーの使い方が際立つ。
「95マイルまではだれもが打てる」といわれるほど、最近の打者は速球に強くなっている。つまり、投手が速球一本で勝負するのはむずかしい。
ダルビッシュの持ち味も「七色の変化球」を駆使できる投球術にある。
投高打低をもたらしているもうひとつの要素は、ブルペンの高水準だ。
典型的な例が、勝率7割を超えるハイペースで突っ走るドジャース。先発陣に眼をやると、トニー・ゴンソリンが急成長し、クレイトン・カーショーもまずまずなのだが、本来なら柱になるべきウォーカー・ビューラーやフリオ・ウリーアスがいまひとつパッとしない。それなのにこの強さは……と考えてだれしも思い当たるのが、ブルペンの驚異的な分厚さだ。