マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
甲子園で最注目だった野手はこの男。
仙台育英・入江大樹の“低めのツボ”。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNaoya Sanuki
posted2020/08/27 07:00
遠目にもひと目でわかる入江大樹の雄大な構え。その雰囲気も大打者の要素の1つだ。
「どこに投げても打たれそう」な気配。
入江大樹の足元にしゃがみ込む。
この「ビューポイント」は久しぶりだ。学生時代、いやっというほどやらされた「バッティングキャッチャー」の位置だ。
見上げると、入江大樹の頭の位置が高い。
バットを構えた姿の足がすごく長く見えて、トップを作る両腕、これがまたすごく長く感じる。
ゆったりと、懐の大きな構え。こう構えられると、「捕手」としては、どこに投げてもやられてしまう……そんな絶望感に、まずかられるものだ。
向き合うバッティングピッチャーの投じるボールは120キロ台か。今日は「まっすぐ」だけだ。140キロ台当たり前の強豪校のエースばかりと対戦している入江選手には、ちょっと遅すぎて打ちにくいのでは……。
やはり、最初の2球はのめった。ボールが遅すぎて体が突っ込み、フライを打ち上げていたが、3球目にはもうピシャリと合わせてきた。
右打者のインロー、足元のボールだ。
キャッチャーの位置から見ると、入江選手の右足首に当たりそうな難しいボールなのに、当たり前のようにきれいに拾って、持ち上げた。
40°ほどの角度で室内練習場の天井を直撃した打球は、グラウンドだったら左中間フェンス直撃か、もしかしたらオーバー。
元巨人の松本匡史が重なる。
インパクトの瞬間に、バットから弾き返される打球のスピードが違う。だれだ? 記憶を呼び出してみると、松本さんだ……。
早稲田大学で1年先輩だった松本匡史さん。読売ジャイアンツでの10年で通算902安打、打率.278。それ以上に、通算342盗塁、2度の盗塁王を獲得して「青い稲妻」と呼ばれた快足ランナーとして、今も野球ファンたちの記憶に残る名選手だろう。
プロに進んでからは、足を生かした「スイッチヒッター」としての活躍が有名だが、大学時代は、長い両腕をしならせた滑らかなスイングから、ライナー性の長打を広角に飛ばすスタイルの打者だった。
入江大樹のバッティングスタイルが、早稲田大学当時の「松本匡史」にそのまま重なった。