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ブレックスの“黄色いアリーナ”秘話。
目先の黒字額より大切なものとは。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byTOCHIGI BREX INC.
posted2020/08/26 11:30
客席の黄色は、入場者に無料で配られたTシャツだ。試合の時には、それを着た観客でアリーナが一色になる。
「単なる仲良しの関係」ではない。
安齋HCは、かつてこう話していた。
「他のチームのコーチなどからよく言われるんです。『ブレックスは、フロントと仲が良くていいな』と。ただ、現場から要望があれば伝えるし、鎌田さんたちからも、こうして欲しいと言われることもあります。僕らは単なる仲良しの関係ではなく、良くするために言い合える関係だと思うんですよね」
要望を伝え合えば、互いに責任が生まれる。チームの希望をくんでもらえれば、最後はみんなのために頑張ろうという活力になる。
ブレックスはあきらめないチームである、ファンが熱心である、ブレックスアリーナは良い雰囲気である、などの評価が定まりつつあるが、それらはチーム、クラブ、ファンそれぞれの思いのケミストリーが生んだものなのだ。
経営陣の交代も、長期的な発展のために。
そんな想いの交錯するCSが開催されずにリーグが終了した陰で、ブレックスは新しい一歩を踏み出した。新型コロナウイルスの流行が直接の理由ではないが、いわゆる“withコロナ時代”を戦い抜く準備を整えた。
これまで副社長だった藤本光正が新たに代表取締役社長に就任し、鎌田は取締役の肩書きは残しつつ、GM業に軸足を置くことになった。鎌田はもともとスポンサー営業の担当として伝説的なエピソードを持つビジネスマンだが、これからはもっと長期的な視点でクラブの未来を築く役目を担うことになる。
もともとブレックスには、他のクラブにはない特異な歴史がある。かつて、TGI D-RISEという下部組織を有し、若く才能あふれる選手たちを鍛え上げてきた実績だ。
Bリーグ3シーズン目にベストディフェンダー賞とベスト5に選ばれ、現在もブレックスの主力として活躍する遠藤祐亮を筆頭に、川崎ブレイブサンダースの大塚裕土、レバンガ北海道の多嶋朝飛、秋田ノーザンハピネッツの細谷将司など、TGI D-RISEの出身者は各チームに散らばっている。
Bリーグの規約上、二軍的な位置づけの組織を持つことはできないが、若い選手の集まるユースチームの保有は義務づけられている。鎌田とブレックスは、そこに可能性を感じている。
「GMとして選手育成により時間を割けるようになるので、トップチームだけではなく、ユースチームの強化にもっと力を入れていこうと思っています。今まではよそから選手をとってくることが多かったのですが、ユースから生え抜きの選手も育成していきたいなと思っています」
あの壮観な太陽のアリーナは、今年は見られなかった。
しかし数年後、2020年の夏の変革こそがブレックスの新たな太陽を生む大きな転機だったと語られていても、決して不思議ではない。