濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“デスマッチのカリスマ”葛西純、
後楽園復帰戦での死闘と笑顔の理由。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byHorihiro Hashimoto
posted2020/08/09 11:30
久々の後楽園で佐久田俊行を下した葛西純(右)。試合ぶりだけでなく、充実した表情も見ものだった。
入り乱れた狂気と凶器。
葛西の喜びに拍車をかけたのが、対戦相手の佐久田俊行だった。
大日本プロレスの新鋭である佐久田は、伸び悩んでいた時期もあったがFREEDOMS参戦で弾けた。敵地では格好をつける必要もない。ガムシャラに暴れ続け、思い切りのいい試合ぶりが際立つようになった。デスマッチにおける「思い切りのいい試合ぶり」とは、つまり観客に「コイツの頭どうなってんだ!?」と思わせる、狂気性に満ちた闘いということだ。
この試合でも、2人は存分に、実に楽しそうに狂気の世界を生きた。
ADVERTISEMENT
序盤から蛍光灯で殴り合うと、葛西はカミソリで切りつける。佐久田は防犯用の金具「忍び返し」を大量に張り付けた板を持ち出した。その上でフェイスクラッシャーを繰り出したのは葛西。佐久田は忍び返しボードを抱えた葛西にパイプ椅子を投げつけた。金串も佐久田の“持ち込み凶器”だ。互いの頬を貫き通す。
多くの技が“with 凶器”で繰り出された。ダメージも大きいが、それだけではない。凶器をどの場面でどう使うか、どんな技と組み合わせるか。そのアイディアもまた素晴らしい。
「コロナっていう疫病に悪い意味で人生を狂わされた」
蛍光灯の破片で白く変色したマットの上で、葛西はパールハーバースプラッシュ、リバースタイガードライバー、スティミュレイション(変形パイルドライバー)とたたみかけて試合を終わらせた。必殺技3連発は、佐久田がそれだけ手強い相手だった証拠だ。
フィニッシュのスティミュレイションとは「刺激」を意味する。欠場前から、葛西は「俺に刺激をくれ」と言い続けてきた。キャリア20年以上、やれるだけのことをやってきた葛西の本音だった。
そういう時に、他団体の佐久田が“刺激のある相手”として急成長してきたのだ。
この試合で佐久田が見せた闘い、それに佇まいも、間違いなくトップレスラーのものだった。
「アイツと俺っちにしかできないデスマッチができて楽しかったよ」
笑顔で中指を突き立て合い、リングを降りると葛西はそう言った。インタビュースペースでコメントしながら、床に血が滴り落ちる。しかし表情は充実していた。語る内容は試合について、相手についてだけではない。
「あんたらマスコミも、プロレスラーも、お客さんも。もっと言うなら世界中の人たちがコロナっていう疫病に悪い意味で人生を狂わされた。でもな、この葛西純がお前らの人生、いい意味で狂わせてやるからな。俺っちの背中についてこい、後悔はさせねえ。ファッキンコロナ!」