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ロナウドを交代させたファンの声。
いまのJにある“空気”は根付くか。
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byJ.LEAGUE
posted2020/08/01 11:30
静寂のスタジアムで聞こえた選手やファンのリアルな声。サポーターの歌声や手拍子もいいが、また異なった趣を感じることができた。
ロナウドを交代させたファンの声。
静けさで思い出すゲームがある。2006年ドイツ・ワールドカップでの、ブラジルとクロアチアの一戦だ。
優勝候補ブラジルの初戦ということもあり、ベルリンのスタジアムは高揚感に包まれていた。だが、時間が経つにつれて陽気なブラジル人ファンが不機嫌になっていった。
ロナウドがたらたら歩いているからだ。やる気があるように見えない。
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ロナウドにボールがわたるたびにファンは文句を言い出し、そのうち「ロビーニョ!」と叫ぶようになった。1人ひとりの声はやがて大きなうねりとなり、69分、ついにパレイラ監督はロナウドを下げ、ロビーニョを投入する。
ファンの声が、チームを動かした瞬間だった。
Jリーグでは、こうしたシーンはまず見られない。
というのもゲーム中、歌声と太鼓の音がほとんど間断なく鳴り響いているからだ。1人ひとりが大声で叫んだり、ごちゃごちゃ文句を言ったところで、すぐにかき消されてしまう。
しかしその歌が禁じられたことで、普段は聞こえないものが聞こえるようになった。
ボールを蹴ったり、トラップする瞬間の音。もちろん、監督や選手たちの声も。
生活を懸けたプロのリアルな姿。
柏のゲームでも、いい声が聞こえてきた。
味方がファウルを受けた場面で、柏GK中村航輔が「足裏2回目だぞ、レフェリー!」と大声で指摘し、レフェリーや相手選手にプレッシャーをかけた。生活を懸けて真剣に戦う、Jリーガーのリアルな姿がそこにはあった。
無観客だったときは、スタンドで観戦するクリスティアーノの姿が印象に残った。
ゲームに入れ込みすぎるあまり、レフェリーを日本語でやじったり、ひとつのファウルにうめき声を上げたり、手にした空のペットボトルで席を叩いたりと大忙しだった。ブラジルのゴール裏にいる若者とまったく変わらない。