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イチローの辛辣で率直な言葉たち。
傍で聞き続けた人にだけ見えたもの。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2020/04/26 09:00
イチローの言葉は刺激に満ちている。その内側に込められたものを、見逃さずに受け取りたい。
WBC前の、あまりに率直な言葉。
イチローの言葉を拾っていくと、30歳を超えてからの発言が実に味わい深いことに気づく。たとえば2006年、ワールドベースボール・クラシックが始まるのを前にしたイチローの発言。
「最初から、価値ある大会にするのは無理でしょ。歴史がないんだから」
率直な物言い。ここまで踏み込んでいると、たしかにテレビでは流れないかもしれない。
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また、2012年のシーズン途中にヤンキースに移籍する際の葛藤も興味深い。
「いろんなことを考える中でネガティブなことも考えました。でも、イエスと言えば、すごく前向きな挑戦も待っている」
と話したうえで、こうも言う。
「決断が100%のものであったかどうかは実際のところは分からない」
このイチローの思考回路について、丹羽さんは「清濁併せ呑んだ」と書く。
テレビの中継だけでは分からない、感情の機微をうかがい知れるという意味でも、とても貴重な本である。
「野球をやったことないやつを……」
そして昨今話題のビッグデータについて、1章を割いた「頭を使わない野球」で書かれた考察も興味深い。
イチローは2019年に東京ドームで行われた引退会見で、データが重視されている野球の現状についてこう嘆いた。
「頭、使わなきゃいけない競技なんですよ、本来は。でも、そうじゃなくなってきているのがどうも気持ち悪くて」
データに基づいた采配があり、選手たちはそれに則ってプレーするのが、この数年のメジャーリーグの「流行」だ。イチローは数字が万能である風潮に釘を刺す。
「野球をやったことないやつを現場に入れているから、ややこしくなっている」
映画にもなった『マネー・ボール』はもはや牧歌的な世界。ここ数年のアメリカの野球は、数字に拘泥しすぎるあまり、面白みを欠くようになった――私はそう感じている。
細かすぎるのだ。