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メジャー初制覇! 原英莉花が受け継ぐジャンボイズム「天才になるべく、練習方法を知っている」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKiichi Matsumoto
posted2020/10/04 17:03
日本女子オープンで国内メジャー初制覇を達成した原英莉花
全盛期をリアルタイムでは知らずとも。
ただ、52歳も年が離れていて、ほとんどテレビも観ずに育ったという原は全盛期の尾崎を知らない。それでも、インターネットで過去の動画を視聴し、往時の尾崎の境地を敏感に感じ取っていた。
「優勝のパットで何度も(打席を)外すシーンを観たんですけど、ああなるまで……。わかりますか? ああなるには、すごい歴史がないと、ならないと思うんです」
原が語ったのは1988年、東京ゴルフ倶楽部で開催された日本オープンゴルフでのワンシーンである。青木功、中嶋常幸と首位争いをしていた尾崎は、18番ホール、1mに満たない距離のウイニングパットを打つのに2度、仕切り直した。そのたびに顔をしかめ、手首を振った。最終的にはパットを決め優勝を飾ったが、そのとき尾崎はゴルフの深淵を見た。
「まったく手が動かなかった。これを入れれば優勝、日本オープン、東京ゴルフ倶楽部、そういう状況が重なって、自分の普段の気持ちから離れていってしまったのかな。ゴルフが難しいのは、ボールが静止しているから。始動が自然に出来なくなってくる。パッティングだけは打つんじゃない、平行運動なの。だから、余計に難しい」
尊敬するのは「今のジャンボさん」。
とはいえ、原は、尾崎の「過去」に惹かれたわけではない。あくまで「現在」の尾崎を見つめ続けている。ここ6年、優勝はおろか、予選通過すら果たせずにいる老ゴルファーのことを。
「間近でお会いして、迫力がものすごかった。ジャンボさんの行動だったり言葉だったりを本当に尊敬している。私にとってのジャンボさんは、今のジャンボさんです」
『ミリオンダラー・ベイビー』の中で、フランキーの指導を熱望するマギーは自分の長所はタフなところだと自己ピーアールした。すると、フランキーはこう返した。
〈タフなだけでは足りないんだ〉
尾崎が、後進に伝えようとしているところもそこだ。強気な発言と派手な振る舞いばかりが先行しがちだが、ジャンボの本質は繊細さであり、技術だ。
「天才と言われる人ってのはね、本当は天才じゃないんだ。天才になるべく、練習方法を知ってるんだよ」