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元100m日本記録保持者・朝原宣治が
今も信じる自分の可能性。 

text by

林田順子

林田順子Junko Hayashida

PROFILE

photograph byShigeki Yamamoto

posted2020/03/04 11:00

元100m日本記録保持者・朝原宣治が今も信じる自分の可能性。<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto

100mって、実は自分との戦いです。

 もっといい練習があるのでは、何か違うことができるんじゃないか。そういう好奇心と向上心があったからこそ、長く現役を続けられたのでしょう。その思いは今も尽きずに持ち続けているし、それが尽きたときは、体も心も動かなくなるんじゃないかな。

 100mって、ほかの選手との競り合いに見えると思うのですが、実は自分との戦いです。周りの人がどれだけ速く走ろうが、自分のペースをきちんと守って、いつも通りの走りをすることが大切。海外のレースに出て、自分の走りができなくなるというのは、視界に入ってくるものがいつもと違うから。平常心でいるためには、何が自分の視界に入ってきても、無視できるようにしないといけない。誰かが横に並んでも、リードされても、パニックにならないようにする。そのために現役時代は、ほかの選手にちょっと前の位置からスタートしてもらって、追いかける練習をしたりしました。

 あと僕の場合は、ライバルに勝とうとか、レースで気持ちをオンにしようとすると失敗します。なぜかというと余計なことをしちゃうから。むしろ自分にすごく集中しているときが、ナチュラルで一番力が発揮できる。スタートラインに立つまでに誰と会っても、何を話しかけられても、全く気にならない、自分がやるべきことしか考えてないという状況を作るのがすごく大事です。

外国の選手って、やっぱりすごくタフ。

 外国の選手って、やっぱりすごくタフ。日本人はトラックのせいとか、風のせいとか結構細かいことを言う選手が多いけれど、外国人選手はどんな状況でも走る。昔ヨーロッパ遠征したときに、ウォーミングアップエリアがなかったことがあって。でも外国人選手は平気でその辺の空き地でウォーミングアップする。しかも、めちゃくちゃ速く走るんです(笑)。

 アジア大会で選手村が整ってなかった時もありました。お湯が出ないとか、食事がおいしくないとかで、記録を出せない日本人選手がすごく多かったなか、インドの貧しい地域から来ている選手たちにとってはすごく快適だったそうで。みんな自己ベストを出しまくっていました。そういうタフさは日本人に必要なところでしょう。

【次ページ】 自分たちで行動する合宿の重要性。

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