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元100m日本記録保持者・朝原宣治が
今も信じる自分の可能性。

posted2020/03/04 11:00

 
元100m日本記録保持者・朝原宣治が今も信じる自分の可能性。<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto

text by

林田順子

林田順子Junko Hayashida

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Shigeki Yamamoto

「こんなこと言うと『なんだあいつ』って怒られると思うけど、今の情報と技術があり、もし僕が今、22歳だったら、きっと(100m)9秒台出してますよ(笑)」と笑うのは、男子100mの日本記録を3度更新した朝原宣治だ。2008年、36歳で臨んだ北京五輪では、4×100mリレーに出場し、日本男子トラック種目で史上初のメダルを獲得した。
 2008年に引退をしたものの、朝原の挑戦は続いている。昨年のアジアマスターズ陸上競技選手権大会では45~49歳クラスの4×100mリレーで世界記録を更新し、優勝。現在は「50代になったら10秒台を出したいね」とうれしそうに笑う。47歳の現在も自らの可能性を広げようとする原点とは。

 もともとマスターズにはあまり興味がなかったんです。日本のトップまでいったというプライドもあって、わざわざレベルを下げたところで競技をすることが嫌だった。でも引退して10年が経って、現役当時への思いも薄れてきていて、現役時代の自分と、今の自分をわけて考えられる心の整理がつきました。

 引退してから10年間、全くレースに出ていなかったので、最初に走ったときは、走れなすぎてびっくりしました。こんなに落ちるんだ……って。でも、向上していきたいという思いは10代の頃と一緒で、いつまでもあるんですよね。

 歳をとった今の体力や、練習に時間を割けないなかで、どうやってタイムを上げていくか。朝運動をしたり、夕方時間があれば走ったり……。仕事の合間を縫って、自分で工夫しながら練習をして、体力を維持したり、タイムを上げることがマスターズの醍醐味でもあるし、今の僕にとってはすごくやりがいのある、楽しいことになっています。

できなくなったことを違うもので補って。

 よく「なぜ36歳まで現役でいられたのか」って聞かれるんですよ。でもね、長い距離はなかなか走れなくなるけど、代わりにウエイトトレーニングをしたり、練習方法を変えたり、いろいろな手はある。トータルの練習量は変えられないので、できなくなったことを違うもので補って、全体の量を確保するようにしていました。

 例えば、僕の理論では、若い頃は細い筋肉でも大きな出力が出るし、ストライドも大きいので、そこまで筋肉を大きくしなくてもいい。でも、歳をとってくると、ひとつひとつの筋細胞の出力が落ちるので、体をでかくしないといけない、というのが僕の考え方。だから、多分北京五輪のときが過去最大に体が大きかったと思いますよ。

【次ページ】 100mって、実は自分との戦いです。

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