野球善哉BACK NUMBER
大阪桐蔭、天理、智弁学園は対応中。
高校野球の指導に迫る変化の波。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/02/03 07:00
パワハラに指導者がビビる時代に、 球児たちが発揮すべき「聞く力」。
長い練習時間に、大量の食事。
智弁学園の小坂監督も練習についての考えを軌道修正したと語る。
「今までは量を多めにやることを重視していましたね。だから、練習時間が伸びるんですけど、じゃあそういう長い時間、選手の集中が続くかと言ったら難しい。むしろ抜くようになる。
今は、選手たちが全力でできる回数というのが一番いいのかなと思っています。休養や睡眠の大事さも感じるようになりました。そういう環境をつくってあげることが大切」
身体づくりは今の高校球児の一大テーマになっている。しかし、身体を大きくするためにしっかりトレーニングをしてしっかり食べる、というマインドに陥り、長い練習時間と、それでも体重が増えるような大量の食事を摂取させてきた。
いわゆる“食トレーニング”と呼ばれるものだが、選手から食の楽しみを奪う苦行になっていることに気づいたという。
主体性にゆだねる、という決断。
「選手たちの想いが入っていなければ、意味のない練習になる」
そんな達観したような言葉を、天理・中村監督はよく口にする。「練習をするのは選手」とこう持論を語る。
「指導者が日本一になりたいから、それだけの練習をするぞ! っていうのは違うと思うんですよね。今回甲子園に久しぶりに出ますけど、これまで選手たちに言ってきたのは、甲子園に出たい、日本一になりたいと思うのなら、自分たちの意思でそれだけの練習をやりなさいと。そのためのメニューは組むし、お手伝いをするのが我々の役目やから、と」
練習中、中村監督はグラウンドをウロウロと歩き回っている。しかし声を荒げることもなければ、何かを指示している姿はほとんど見かけない。むしろ選手がどんな練習をしているかを観察し、練習環境に不備がないかを確認していたのが印象的だった。
天理は昨年秋、県大会準決勝でコールド負けを喫したものの、3位で進出した近畿大会では報徳学園、奈良大付、履正社、大阪桐蔭を破って5年ぶりの優勝を果たした。
「本当によく練習するチームなんですよ。うちは全体練習の時間が短いんですけど、自主練の時間ではかなりやっているみたいで。今までで一番かもしれないですね」
チームは指導者が作るのではなく、選手たちのものなのだ。主体性を尊重する、という指導者の大事な側面を見せてくれる監督だ。