Sports Graphic Number WebBACK NUMBER
<エールの力2019 vol.5>
畠山愛理「大歓声を浴びる宝物のような時間」
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byAFLO
posted2019/12/16 11:30
今でも忘れられない、ある大歓声。
新体操日本代表「フェアリージャパン」として活躍した7年間、チームの仲間とともに世界中の舞台で歓声を浴びてきた。その中でもドイツ、シュツットガルトでの2015年世界選手権はいまでも忘れられないという。
「日本代表として40年ぶりに団体種目別のリボンで銅メダルを獲得し、リオへの出場権を獲得した大会です。チーム全員が最高の状態で臨めました。仲間とは1年のほぼすべての360日ずっと一緒にいるので互いのことを知り尽くしています。シュツットガルトでは全員がひとつになって演技することができました」
演技のフィナーレはリボンの4本投げ。
何千回、いや、何万回と練習してきた大技が見事に決まり、その瞬間、アリーナは割れんばかりの大歓声に包まれた。
「日本の応援団だけでなく、会場中の人たちがものすごく盛り上がったので、ほんとうにうれしくて。翌年のリオも印象的ですが、ひとつを選ぶとなるとシュツットガルト、あのときの歓声に勝るものはありません。この大会では予選決勝あわせて4度の試技があり、すべてノーミスで演技することができました」
重圧があっても心の底から楽しみたい。
新体操は、ひとつのミスが命取りになる過酷な競技。そのプレッシャーを乗り越えるために、フェアリーたちは歓声のない舞台裏でひたすら練習に明け暮れる。
「私も試合前日の夜はどうしても落ちつかなくて、朝起きるとよく口の中に血豆ができていました。寝ようと目を瞑ると自動的にイメージトレーニングしてましたね。気づいたら寝ていて、そのまま睡眠中に歯を食いしばってしまうのです。練習しても、練習しても、競技していない時間はなんだか落ち着かないタイプでした。プレッシャーを乗り越えるには……ひたすら練習するしかないですね。そしたら本番は楽しめると思います」
プレッシャーを乗り越えるのは当たり前。畠山さんはその上で、心の底から演技を楽しもうと新体操に向き合ってきた。
「1年間、ほとんど休みなく毎日8時間練習しているんです。その成果を大舞台で披露できなかったら、がんばってきた自分にも申し訳ないじゃないですか。私は幼いころからたくさんの人たちに自分の演技を見てほしいと思って競技に励んできました。だからミスを怖がるとかじゃなくて、この舞台を楽しまなきゃもったいないって思うんです。演技のあとは、いつも“ああ、楽しかった”と思える自分でいたいですから」