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<エールの力2019 vol.5>
畠山愛理「大歓声を浴びる宝物のような時間」

posted2019/12/16 11:30

 
<エールの力2019 vol.5>畠山愛理「大歓声を浴びる宝物のような時間」<Number Web> photograph by AFLO

text by

熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

PROFILE

photograph by

AFLO

 スポーツキャスターとして多方面で活躍する畠山愛理さんには、小学生時代の修学旅行の思い出がない。クラスメイトが大はしゃぎしているころ、彼女は黙々と新体操の練習に打ち込んでいた。

 だが、つらい過去ではない。修学旅行に「行けなかった」のではなく、自ら進んで「行かなかった」からだ。

「当時、同世代の選手に比べても、私はだれよりも新体操愛が強かったんです。新体操の技は思わず見とれてしまうくらい美しくて、一つひとつがものすごく難しい。だからこそできるようになると、言葉にできないくらい嬉しくて幸せな気分になれました。そんな新体操から片時も離れたくなくて、修学旅行中に“数日間も新体操ができないのか”と思うと、単純に嫌だったんです。だから練習することを選びました」

書き続けた「反省ノート」。

 世界中のだれよりも、私は新体操が好き!

 夢中で競技に打ち込む畠山さんだったが、中学生になって情熱が冷めてしまう。間違った減量で心身のバランスを崩してしまったからだ。腰痛を患い、車椅子に乗るほど重度の貧血にもなった。

「怪我で全日本大会を棄権した事がきっかけで、コーチともぎくしゃくするようになりました。気づいたら練習場に行くたびに体調を崩して帰宅するようになって……。大好きな新体操がきらいになってしまった自分を信じられなくて、思い悩んでいました」

 ふさぎ込む彼女に、大切な気持ちを思い出させてくれたのは、過去に自身が書いてきた反省ノートだった。

 それは小学生時代、畠山さんが日々の練習について熱心に書き留めていたノートだった。そこには練習内容だけでなく、技が成功したときの喜びや将来の夢がつづられていた。

「タイトルは“反省ノート”ですが、幼いころの純粋な気持ちが書かれていて、私はこんなに新体操が好きだったんだ、こんな夢を抱いていたんだということに、あらためて気づかされました。それからです、また新体操への情熱が戻ってきたのは」

「もう一度、がんばってみようよ」という、過去の自分からのエール。それが離れかけていた、新体操への思いをつなぎとめたのだ。

【次ページ】 今でも忘れられない、ある大歓声。

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