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<WBSCプレミア12プレビュー>
稲葉篤紀「金メダルへの第一歩」
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byShigeyoshi Ohi
posted2019/10/31 11:15
初戦の入り方が重要。自分たちの流れにいかに引き寄せるかが勝負。
――稲葉監督はオリンピック、WBC、プレミア12と、いろんな国際舞台を選手、コーチとして経験してきましたが、オリンピックだけに感じる独特の雰囲気というものはあると思われますか。
稲葉 ありますね。僕はそれをすごく感じました。何がと言われると、言葉では伝えづらいですが、オリンピックというのはやはり特別な大会ですし、メディアのみなさんを含めて周囲の方々もすごく特別な雰囲気で臨まれると思います。こういうところに選手は敏感なので、普段通りに戦うのは難しくなります。第1回のWBCで世界一になった2年後の北京オリンピックでは、金メダルは当たり前という目で見られましたし、当時の星野仙一監督も「金メダル以外はいらない」と断言していましたから、選手たちも「そうだろうな」と、勝って当たり前のプレッシャーをいつしか背負わされていたように思います。まして来年の東京オリンピックは自国開催ですし、もっと重たいものを背負って戦うことになるということは覚悟しています。
――過去、プロが加わった日本代表で臨んだオリンピックでは、そのプライドもあってか、金メダルを獲るだけでなく予選からの全勝を掲げるなど、自らの首を絞めた感が否めないところが多々ありました。東京オリンピックでは敗者復活を含めた複雑なトーナメント方式が採用されていますが、そこはどんな戦略で臨もうとお考えですか。
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稲葉 もちろん、目標は金メダルです。全部勝つことがベストですが、敗者復活もあることを頭に入れながら戦う必要があると思います。負けても金が獲れるという考え方ですね。
――北京でも4勝3敗の4位で決勝トーナメントに勝ち上がって、結果、準決勝、決勝と勝てば金メダルだったわけで、3敗しても金は獲れたんですよね。
稲葉 そうなんです。だから全勝して勝つというところに縛られず、金を獲るためにどうやって戦っていくかということをしっかり考え抜いていく必要があるということです。負けたら崖っぷちになると考えるか、負けてもまだチャンスがあると考えるか。そこは考え方ひとつですからね。日本は2009年のWBC以来、10年も世界一から遠ざかっています。だからみなさん、全勝して金メダルというのは期待しているところではあると思いますが、僕はどんな形であれ、金メダルを獲れればいいと思っています。
――ところで監督、ラグビーのワールドカップはご覧になっていますか。
稲葉 見てますよ。自国開催のワールドカップで、プレッシャーのある中を勝ち進んだわけですから、来年の野球もこういう盛り上がりの中でやることになるんだろうなと置き換えながら見ています。
――学ぶべきところはありましたか。
稲葉 僕は初戦というものがすごくキーを握っていると思っています。侍ジャパンのミーティングでも「1を大事にしてほしい」ということをいつも選手に言っています。ラグビーの日本代表を見ていても、初戦の入り方は難しかったと思います。緊張しますし、なかなか自分たちの思うようにいかない。その流れをどうやって持ってくるかというところはとても勉強になりました。実際、初戦を勝ったことで日本中が盛り上がったし、スタジアム全体がチームをどんどん強くしてくれたような、そんな気がします。そこは自国開催の強みでもありますし、侍ジャパンも初戦を大事に戦いたいと、改めてそう思いました。
稲葉篤紀Atsunori Inaba
1972年8月3日、愛知県生まれ。'95年、東京ヤクルトに入団。'05年に北海道日本ハムに移籍し、'14年に現役を引退するまでリーグ優勝7度、日本一4度を誇り、'07年にはパ・リーグ首位打者と最多安打を獲得。'08年北京五輪、'09年と'13年のWBC日本代表に選出。引退後は、代表コーチを経て、'17年に侍ジャパン監督に就任。