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「逃げ」で記録した驚異的な数字。
賞賛すべき横山典弘の感性と腕。
text by
平松さとしSatoshi Hiramatsu
photograph bySatoshi Hiramatsu
posted2019/09/13 17:00
重賞初勝利を驚天動地のレース運びで制したトロワゼトワル。「逃げ」の戦法をとるのもまた、初めてだった。
「馬と会話をしながら感性で」
序盤の1ハロン目こそ12秒3というラップだったものの、2ハロン目以降は10秒6-10秒4-10秒9。3ハロンにわたって10秒台で突っ走ったのだから、他がついて来ないのも頷ける。競馬の世界は何をもって普通というか難しい面があるが、大多数のマジョリティを普通ととらえれば、このラップは普通ではない。つまり、大概の場合は止まってしまうペースでの逃げだったわけだ。
しかし、横山典騎手はレース後に次のように語っている。
「体内時計のしっかりしたジョッキーからしたら、無謀なペースと思えたかもしれないけど、自分は馬と会話をしながら感性で乗りました」
つまり、一般的にみて速いペースと思えたこのレースの中で、鞍下からは「これでも大丈夫」という感触を得ていたからこそ、刻めたラップだったのだろう。これにはもう「さすが」と舌を巻くしかない。
もし差されて2着以下だったら……。
横山典騎手といえばイングランディーレでまさかの逃走劇を見せた天皇賞・春(2004年)や、向こう正面で一気にまくって最後までもたせてしまったゴールドシップでの同じく天皇賞・春(2015年)、ダービー馬スペシャルウィークを完封する逃げ切り劇を演じたセイウンスカイでの菊花賞(1998年)など、大舞台でも再三再四、天才的な手綱捌きを披露している。
今回の京成杯AHも彼ならではの感性と技術がもたらした結果ではあるのだが、果たしてこれがもし差されて負けていたら、世間の評価はどうなったのだろう?
全く同じ騎乗で、全く同じラップを刻み、全く同じ時計で走り切ったとしても、もし差されて2着以下になっていたとしたら、周囲からは「ハイペースで飛ばし過ぎ」「あのペースでは差されて当然」と言われてしまった可能性が高い事は否めない。