野球善哉BACK NUMBER
履正社を強くした奥川恭伸の衝撃。
春は17三振、夏決勝で運命の再会。
posted2019/08/21 20:00
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Hideki Sugiyama
怖い、怖い。
怖いくらいにシナリオができている。
夏の大会では初めてとなる決勝の舞台に挑む履正社のことだ。
「今年のセンバツで対戦した時に、奥川(恭伸)くんのことを『高校生のレベルを超えている』と言いました。6月にも練習試合をした時に、奥川くん本人にも、誉め殺しをするつもりで言ったんでもなくて、本当にそう思ったんやで、と伝えました。今のチームにとっては、奥川くんを打てずに負けたこと、センバツで校歌を歌えずに帰った悔しさが財産になっています」
履正社の岡田龍生監督はそう語っている。
初の戴冠を狙う履正社にとって「星稜」そして「奥川恭伸」は自身たちを鼓舞してきた大きな材料だ。センバツでの対戦は9回3安打と封じ込められ、17三振を喫した。
「もっとレベルの高いバッティングをしなければいけない」
奥川との対戦が、履正社ナインの目標ラインの修正につながった。ここまで全試合の1打席目で安打を放ち、23打数9安打2本塁打と驚異的な成績を残している1番の桃谷惟吹はこう話す。
「もっと努力せなあかんねんなという意識になった」
あのセンバツで、彼らの「好投手の基準」は奥川になったのだ。
好投手を攻略してきた履正社。
3年ぶりの出場となった今大会、履正社は初戦から好投手との対戦が多かった。
初戦の相手は148キロのストレートが評判だった霞ヶ浦の右腕・鈴木寛人。
しかし、桃谷が先頭打者弾で口火を切り、3回までに7点を奪って鈴木をノックアウトした。大会タイ記録となる5本塁打をマークする圧倒的な打力に、履正社ナインの積み上げてきたものの大きさを感じずにはいられなかった。
2回戦では、148キロのストレートが持ち味の津田学園・前佑囲斗から3回で9安打6得点を奪ってマウンドから引きずり下ろした。前評判の高い投手を、履正社打線は次々と攻略していった。