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<特別対談 前編>
室屋義秀(パイロット)×小山宙哉(漫画家)
「『ガンダム』と『スラムダンク』に憧れて」
posted2019/07/30 11:00
text by
別府響(文藝春秋)Hibiki Beppu
photograph by
Tadashi Shirasawa
人はいつだって、「そら」に憧れる。
自分たちの力だけでは手の届かない、遠い場所だからこそ、その美しさや不思議さに多くの人が思いを馳せるのだ。
航空機パイロットとして、いくつものショーやレースで活躍してきた室屋義秀と、現在「モーニング」で宇宙飛行士たちの生き様を描いた『宇宙兄弟』を連載中の漫画家・小山宙哉。彼らもそんな「そら」に魅せられた人間のひとりだ。
ジャンルは違えど、地上から遠く離れた世界を舞台にして活躍する彼らが目指すものとは、一体何なのだろうか。
対談の前編は、2人がここまで走り続けられた「原点」と、アイデアの源泉に迫ります。
室屋義秀Yoshihide Muroya
1973年1月27日生まれ。3次元モータースポーツ・シリーズ「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ」でアジア人初の年間総合優勝を果たす。日本国内ではエアロバティック(曲技飛行)の啓蒙の一環として、全国各地でエアショーを実施するなど活躍。
小山宙哉Chuya Koyama
1978年9月30日、京都府生まれ。美術系の学校を卒業後、デザイン会社勤務を経て漫画家デビュー。「ジジジイ」で第14回MANGA OPEN審査員賞を受賞。2007年より「モーニング」で『宇宙兄弟』を連載開始。単行本は累計発行部数1900万部を越える超人気作に。既刊35巻、以下続刊。
室屋 僕のパイロットとしてのスタートは『機動戦士ガンダム』なんですよ。幼稚園の頃にガンダムを見て、「あれに乗りたい」と思ったのがはじまりなんです。コクピットで機械に囲まれている感じがすごく子ども心にグサッと刺さって。
小山 いま乗っていらっしゃる飛行機は、乗り物としては一番ガンダムに近いかもしれませんね(笑)。
室屋 たしかに操縦桿とか似ていますね(笑)。最初はガンダムに乗りたかったんですけど、もちろんどこにもなくて。それで小学校の時に旅客機のコクピットを見せてもらったんです。そうしたら、「あ、ガンダムに近いな」と思った。それで大学からグライダーで飛び始めて、徐々に操縦技術の方にも興味が出てきた感じですね。結果として曲技飛行のフィールドにも行き、世界の最高峰で戦いたいなと思うようになっていきました。
小山 僕の原点は井上雄彦先生の『スラムダンク』ですね。それまで読んでいた漫画ってギャグ漫画がほとんどだったんですよ。だから漫画といえば笑うものという認識だったのが、スラムダンクで「漫画でも感動できるんだ、泣けるんだ」ということを知ることができた。そこから漫画の幅広さというか、奥深さに感動していった感じですね。
室屋 結構漫画、買うんですけど『宇宙兄弟』は最初に読んだら面白くて、すぐに単行本を一気に買ってしまいました。宇宙を作品のテーマにしたのは何か理由があったんですか?
小山 もともと前作でスキージャンプを題材にしていて、浮遊感のある画をそれまでも描いていたんです。空中に浮いているとか、ジャンプしているとか、そういう時の気持ち良い瞬間を形にするのが好きで。それもあって連載のテーマを選ぶときに当時の担当が「宇宙とかどうですか?」と提案してくれたのが最初ですね。