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イタリアの夏の主役は“アズーレ”。
女子W杯躍進の裏に偏見の歴史。
posted2019/07/14 11:30
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Getty Images
カルチョの国が“アズーレ”に沸いた。
フランスで行われた女子W杯では、史上初めて欧米勢がベスト8を独占したことが話題になったが、その一角を占めたのが20年ぶりに出場したイタリアだった。
ユニフォームの蒼色に由来する代表の愛称「アズーリ」は男子チームのもので、女子チームは女性形で「アズーレ」と呼ばれる。
アズーレによる快進撃は国中を魅了した。
大会中継の視聴率は試合ごとに上昇し、準々決勝のオランダ戦では最高視聴率44.35%を記録。3週間前に男子代表がギリシャ相手に3-0で勝ったEURO2020予選中継の28.8%を大幅に上回った。全国のサッカー少女たちだけでなく、男たちも個性豊かなプレーを見せる女子のサッカーに目を見張った。
今月末に御年78歳になるセルジオ・マッタレッラ大統領まで興奮し、帰国した彼女たちを大統領府に招いて「この国の女子サッカーに光明を与えた」と最大級の祝辞を与えたほどだ。
W杯前の関心は低く、年収も3万ユーロ。
イタリアの6月は、女たちの夏だった。
「我が国の女子サッカーは他国より20年遅れている」
大会前、女子代表監督ミレナ・ベルトリーニは何度も強調した。意外なようだが、まさに国民的関心事である男子サッカーへの熱の入れ様に較べ、イタリアでの女子競技の認知度や経済規模は著しく劣っている。女子代表選手の平均年収は、3万ユーロ(約365万円)に満たない。
スクールスポーツとして根付き、優れたインフラを誇る米国や女子クラブシーンの巨星リヨンを擁するフランスとはわけがちがうのだ。
20年ぶりのW杯出場を果たしたイタリアがグループリーグを突破する可能性は決して高くなかった。何しろグループCには、世界ランキング6位のオーストラリアと“女版ジーコ”FWマルタを擁する強豪ブラジルがいた。
だから、バランシエンヌでのグループリーグ初戦で、イタリアがオーストラリアに波乱を起こしたとき、世界中の女子サッカー関係者たちは少なからず驚いたはずだ。