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イタリアの夏の主役は“アズーレ”。
女子W杯躍進の裏に偏見の歴史。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2019/07/14 11:30
五輪切符は獲得ならずも、下馬評を覆したイタリア代表。主将ガマを中心とした強固な守備でW杯ベスト8入りを果たした。
歴史的勝利で勢いに乗るアズーレ。
「相手GKが『RUN! RUN!』って叫んでるのが聞こえたんです。DFは私に気づいてなかった。ボールを奪った後、無我夢中で走りました!」
前半に先制されたイタリアだが、焦らずサイドから崩しにかかり、56分、敵陣で鮮やかにボールを奪ったMFバルバラ・ボナンセアが同点ゴールを突き刺した。ポニーテールをなびかせた痩身のボナンセアは、後半アディショナルタイムの95分にもヘディングで決勝弾を決め、イタリアは歴史的1勝を上げた。
続くジャマイカ戦もFWクリスティアーナ・ジレッリのハットトリックなどで5-0と大勝。最終節のブラジル戦こそ0-1で惜敗したものの、イタリアは堂々のグループ首位で決勝トーナメントへ駒を進めた。
この頃にはイタリア中で女子代表の快進撃が話題になっており、特に10代の少女育成部門を持つ各地のクラブでは、クラブハウスにチームメイトが集まり全員で声援を送るスタイルが流行。就学前の女児たちまで「私もサッカーやりたい」と言い出し、国中の家庭に“アズーレ・ブーム”が起こった。
主将ガマは4カ国語を操る秀才。
代表のシンボルは、主将のDFサラ・ガマだ。
巨大なアフロヘアと抜群の闘志で最終ラインを統率する。昨季はやはりキャプテンを務めるユベントスでスクデット2連覇を達成した。
コンゴ人の父を持ち、4カ国語を操る才女ガマは、多文化共生時代といわれる現代イタリアを象徴するアスリートの1人であり、選手協会の代表としてFIGC(イタリアサッカー連盟)の女子サッカー発展委員会の座長も務めている。
世界的玩具企業のマテル社からは“あらゆる女の子たちの夢を後押しする存在”として、同社の看板商品であるバービー人形のスペシャルモデルに抜擢された。
代表選手の多くは、幼い頃周りから与えられた人形の頭をもぎ取って、外へボールを蹴りに出ていくような子たちだったから、ガマもまさか自分がバービー人形になるとは夢にも思ってなかったにちがいない。
大人になった彼女たちは、ラウンド16で中国代表に2-0の完勝を収め、代表史上最高成績であるベスト8に並んだ。