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ユーベ監督が生放送でブチ切れ!
8連覇でも容赦ない伊メディア。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2019/05/17 11:00
リーグ8連覇を達成して選手とともに喜びあうアッレグリ。今季はC・ロナウドの加入で欧州制覇が期待されたが、CLは準々決勝で敗退。
世論のアンケートの結果は?
“結果至上主義の名監督vs.批判精神を重んじるコメンテーター”、ファンや世間はどちらを支持したか。
『ガゼッタ・デッロ・スポルト』がアンケートで回答を募ったところ、「アダーニを支持する」と答えた層が53.9%でアッレグリ派を上回った。
現役のスクデット監督という肩書や実績が持つ説得力はとても重い。
だからアッレグリの権威に多くが賛同するだろう、と僕は思っていた。
ところが、カルチョの国の人たちの価値基準は別のところにあった。
まずかったのは、舌戦の途中、アッレグリが言い放った「黙っていろ」という上から目線の文句だ。
これは、“対等な立場で議論している相手の発言権を遮る侮辱表現”であり、相手に対して甚だ失礼な言葉にあたる。
もちろん「黙っていろ」という表現は、バールでの口プロレスや親しい人間同士のふざけ合いでなら日常的に使われるが、スーツを着て仕事をする人間が公の場で発していい言葉ではない。
西洋社会の“キレたら負け”。
アッレグリは論争の中で「監督という職業は特別だ」とも強調した。自分の職業に敬意を払え、というのなら、コメンテーターというアダーニの職分にも敬意を払わなければならなかった。それは社会的ルールだ。
どんなに嫌な質問だとわかっていてもアダーニは聞く責任があると思えば尋ねるし、アッレグリには質問に答える義務がある。失態を犯したのが、カメラの前という衆人環視の状況だったこともまずかった。
つまり、分別を失い無礼を働いたと見なされたのは、ユベントスを8連覇に導いた名将の方だった。
我々は“アッレグリほどの立場ある人が怒ったのならそれなりの理由があるはずだ”と考えがちだ。
しかし、ここでは我を失う行為そのものが、理由を問わず子供じみた愚かしい行為だと判断される。とにかく“人前でキレたら負け”、そこに西洋社会の厳しさがある。