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北朝鮮・平壌マラソン参戦記、後編。
10万人の大歓声が虚しく響く。
text by
サハラタカシTakashi Sahara
photograph byTakashi Sahara
posted2019/05/13 08:05
平壌マラソンでゴールしたサハラタカシ氏。金日成スタジアムで誇らしげな表情を浮かべるが、タイムは……。
スタジアムではなぜかサッカー。
ゴール地点のスタジアムに入ると、「10万人」の観客はなんとサッカーの試合を観戦していた。
マラソン中にも退屈しないようにサッカーのエキシビジョンマッチを開催していたらしい。自分が会場に戻ったタイミングで偶然にも点が入り、大歓声の中で走ることができた。
記録は3時間8分46秒、アマチュアの中では15位だった。とはいえ30kmを越えた時点から急ブレーキで、長距離の練習不足が露呈した結果となった。
うがった見方かもしれないが、閉会式を見ていて気づいたことがある。この大会は、北朝鮮国民の優位性を証明するためのプロパガンダレースとして利用されているのでは、ということだ。
アフリカからやってきた黒人選手を抑え、北朝鮮選手が堂々の1位! そんな風に観衆の目には映っているだろう。なお毎年、北朝鮮の人が1位なのだという噂まで聞いた。
この大会の盛り上がりに関していえば、海外からのアマチュアランナーもその役割の一端を担っており、海外からはるばる約1000人ものランナーが平壌にやって来たという事実は、北朝鮮の人々を満足させるには十分な数字だと思う。
報道にもあるように、外貨獲得の側面も大いにあっただろう。ただ一方でこれだけ外国人フレンドリーな大会も珍しく、素人を含めた外国人に対してこんなに盛大なセレモニーを開いてくれる大会は他にないと思う。
マラソン後もツアーは続く……。
レース後も驚くべきことは多かった。「冷麺→地元のスーパー→外国人向けブックストア→平壌市内にあるタワー→アフターパーティ→ビアガーデン」と予定が詰まっている。個人的にはマラソンがメインのツアーかと思っていたが、あくまでマラソンはイベントの1つだったようだ。
そのなかでいくつか印象に残った出来事を記しておきたい。
現地のスーパーに行くと、初めて両替を許可された。このツアー中はユーロ、ドル、円のどれでも使えたが、スーパーでは現地通貨しか使えない。そこで許可が下りたわけだが、10ドルまでの制限があり、余ったら再度両替するように指摘される。
レート表を写真で撮ろうとすると止められたので、恐らく旅行者向けの設定なんだろう。思いのほか海外製品も多く、日本の洗濯機、お菓子も普通に売っていた。なお店内を出る際はレシートをチェックする店員が待機していた。