Number ExBACK NUMBER
北朝鮮・平壌マラソン参戦記、後編。
10万人の大歓声が虚しく響く。
text by
サハラタカシTakashi Sahara
photograph byTakashi Sahara
posted2019/05/13 08:05
平壌マラソンでゴールしたサハラタカシ氏。金日成スタジアムで誇らしげな表情を浮かべるが、タイムは……。
北朝鮮勢のためのペースメーカー?
ハーフ地点を1時間23分台で折り返す。1キロ4分のペースはまだ保たれている。折り返しの直前に先頭集団とすれ違うと、朝食で何度か見かけたアフリカの招待選手たちがトップ集団を引っ張っていた。
それは少し異様な光景で、彼らは北朝鮮の選手のためのペースメーカーのような走り方をしていた。
北朝鮮に来る前、「Is the Pyongyang Marathon in North Korea rigged so that a runner from North Korea always wins the race?(訳:北朝鮮のランナーがいつも勝つように、平壌マラソンは準備されているのか?)」と不正を疑う英語の記事を目にしたが、それを思い出してしまうほどだった。実際に、北朝鮮の選手が1位で、2位が8秒差でエチオピアの選手だった。
だが、そんな話よりも今は自分の記録だ。予定外の暑さ以外は概ね想定通りで、このままのペースで行けば、ほぼサブスリー圏内である。
30kmを過ぎからスピードダウン。
しかし、30kmを過ぎたあたりから、周りを走っていたランナーに付いていけなくなってきた。現実を直視したくはなかったが、アップルウォッチでスピードを確認すると「4:25/km」と出ており、スピードダウンは明らかだ。
35km地点で2時間26分。この段階でアップルウォッチは「4:40/km」を示している。このペースで進めればぎりぎりのラインか。北朝鮮に入ったことでアップルウォッチの計測が異変が起き、もう少し速い可能性があるんじゃないかと、根拠のない期待を胸にペースを保とうとする。
ハングル文字で書かれた残り5kmの看板を見たときには、「北朝鮮の測量方法が少し違って、レースが41kmしかない可能性に賭ける」と無理やり希望を見出そうとしていた。
40km地点で2時間52分。ゴールまで急傾斜の下りであればサブ3も不可能ではない。とにかく諦めずに足を進めると、まさかの急斜面の上り坂が目の前に現れた。
ここで完全に気持ちが切れたこともあって、写真撮影を始めた。そもそも携帯を持って走ったのが間違いだったのかもしれないが、前日に聞いた「世界一」の凱旋門が見えてきたので、ここからはビデオ撮影しながらスタジアムに向かうことにした。