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<世界を魅了したロス・プーマス>
心の勝者、アルゼンチン。
text by

藤島大Dai Fujishima
photograph byShinji Akagi
posted2015/11/13 06:00

今大会で97得点を記録したSOのニコラス・サンチェス。自らのトライは1つだった。
アルゼンチンはアルゼンチンだ。直角に膝を曲げるスクラム。牛の群れが岩と化すモール。聖堂の鐘をぶつけるようなタックル。楽天的なのに容赦がない。ロマンチックで残忍。空を舞い塹壕を掘る。
そしてアルゼンチンは新しいアルゼンチンでもあった。楕円球を手から手へ渡し、タッチラインのそばを痛快に抜き去る。キックと衝突を繰り返す旧来の戦法は封じた。されど痛覚を捨てて体を張る「古き精神」は手離さない。今大会のアルゼンチンは「登録選手のすべてが、その国生まれである唯一の存在」(スター紙)。大半が欧州の一流クラブに属しているのに代表の独自性は揺るがない。スタイルを変えても湧き上がる情熱と闘争心は不動だ。
アイルランドとの準々決勝、アルゼンチンはパス主体の展開を仕掛ける。43-20。優勝候補を大会の外へ放り投げた。
ここで余談を。キューバ革命のチェ・ゲバラは、若き日、祖国アルゼンチンにおいて熱烈なフットボール愛好者であった。丸いほうでなく楕円の球の。ポジションはおもにセンター、ときに左翼(ウイング)も務めた。1951年、ブエノスアイレスの医学生時代には、その名も『タックル』なるラグビー誌を創刊する。計11冊を発行、筆名を使い分けてコラムを書きまくった。一例がこれ。「アルゼンチン国内のラグビーはどれも消極的だ。もっとオープンなゲームをすればファンを獲得できる」。64年後、愛称、ロス・プーマスは積極的なスタイルで世界を魅了する。
こちらは雑誌『Number』の掲載記事です。
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