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「大谷翔平がそうだろ。これがプロだよ」セルジオ越後が6年前に語っていた“日本サッカーに辛口である理由” 

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武智幸徳

武智幸徳Yukinori Takechi

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photograph byToshiya Kondo

posted2021/07/28 11:01

「大谷翔平がそうだろ。これがプロだよ」セルジオ越後が6年前に語っていた“日本サッカーに辛口である理由”<Number Web> photograph by Toshiya Kondo

6年前のインタビューで、「辛口批評をする理由」を明かしていたセルジオ越後氏

 確かに、外国に行く度に彼我のスポーツ環境の差に愕然とした経験を持つ人は多いだろう。それは往々にして「スポーツが文化になっている国とそうでない国の差」として語られる。セルジオはそこにスポーツと宗教の関わりを付け足してみせる。

「ワールドカップで優勝する国って基本的にカトリックなのね。ブラジルもアルゼンチンもドイツも。キリスト教は安息日を設けるから日曜日は商業施設が全部閉まってしまう。それで休みの日に人々が集まって楽しむ受け皿が必要になり、スポーツが大きな役割を果たすようになった」

 社会基盤の安定のため、国もスポーツ環境の整備に力を入れた。そんな下地があってのワールドチャンピオンだと。

“Jリーガーになりたい”から“海外に行きたい”へ

 '93年のJリーグ発足から22年。セルジオが日本に来てからの半生をJリーグ前と後に分けると後の方が長くなった。学校中心の日本のスポーツ文化を変えることを謳い文句に始まったJリーグだが、セルジオは先行きを憂える。企業からスポーツに回されるお金はいまだ“交際費”の域を出ず、不況になれば真っ先に削られる危うさをはらむ。

「Jリーグ誕生から良いところもあったけど、当初の理想から興行の方にちょっとずれてないかな。親会社からクラブに社長が出向して来るのも変わらない。今の社長と日本リーグ時代のサッカー部の部長は何が違う? Jリーグができて華やかだったころ、子供は“Jリーガーになりたい”といっていた。今は“海外に行きたい”という。子供の言葉が一番わかりやすいよね」

 サッカー教室で全国を行脚したセルジオだから感じることがもう一つ。それは地方の関係者の熱量が落ちていること。

「昔は地方に行くと必死にお金を集めて招待大会を開いたりする人たちがいた。この地域のサッカーを自分たちが発展させるんだというエネルギーが各地に満ちてもいた。地方同士の競争もあったのね。そんなエネルギーが、中央から分配金や助成金をもらえるようになって逆に弱まった気がする」

 セルジオとの会話には頻繁に「監査」という単語が出て来る。要はファンもメディアも愛する対象をもっと厳しくチェックしようということだろう。ブラジルでは代表が大きな大会で負けると、それまで流れていた選手を使ったCMが瞬時にテレビや街頭から消えるという。スポンサー企業に苦情が殺到するからだ。日本は勝っても負けても殆ど何も変わらない。

「野球の大谷がそうだろ。これがプロだよ」

「いったい何をすれば、選手に反省させられるのかね……」

 数年前、某クラブに呼ばれたセルジオが選手に語った「プロとは」という講話が印象深い。セルジオ曰く、選手は起業家で、クラブは銀行なのだそうだ。

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