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小学生年代で1日7時間、深夜まで。
卓球、フィギュアの練習に思うこと。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2019/02/17 08:00
伊藤美誠は母とともに一生懸命練習に取り組んできた。しかしそれは伊藤自身の意思があっての話だ。
「1万時間」というキーワード。
以前、「どのようなジャンルであっても、世界トップクラスに達するには1万時間の練習が必要」という学説が唱えられ、話題になったことがあった。
その学説とは別に、国際サッカー連盟の研究機関による調査結果も記憶に強く残っている。その内容を端的に説明すると、一流と言われる選手たちはその域に達するまでに約10年で1万時間の練習をしていること。幼児年代にスタートを切った選手に、それより遅れて始めた選手は追いつくことはないということが調査結果として発表されていた。
詳細な内容は置くとして、問題は報告の中身が吟味されていない点ではないか。つまり単純に「1万時間」ないしは「10年で1万時間」などのキーワードだけが独り歩きしてしまったのである。
なおかつ、幼少期から厳しく練習しないといけないという刷り込みもある。幼少期から猛練習を積んできたトップアスリートの成功事例も重なると、子どもに激しい練習を強いるようになる。
このときに考えるべき課題は、保護者ではなく子ども自身がどこまでやりたい、あるいはそれだけの練習に取り組む必要性があるかと感じ取っているかだ。
保護者が追い込んでは……。
先の例で言うと卓球の選手は、ときに辛いと感じることはあっても、練習をやめたいと思ったことはなかったと振り返っている。それはなぜかというと“負けたくない、もっと上手くなりたいという気持ちが強かったからだ”とも語っていた。
しかし、子どもがそう思うことがないのに、子ども以上に親が入れ込んだらどうなるか。練習を無理強いし、結果が出なければ責める――こういった悪循環になりかねないし、事実、そうしたケースがないとは言えない。指導者以前に、保護者が子どもを追い込んでいるのだ。
「○○ちゃんは毎日、あんなに練習しているのよ! なんであなたはできないの!」
それを辛そうに、謝りながら聞く子ども。とことん追い込んでいるような光景が現実にはいくらでもある。やがて、身体的にも、精神的にも追いつめられていくことになってしまう。ただ辛いだけだったら、いつか無理が来るだろう。