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難聴を克服して56年ぶりの五輪へ。
円盤投げ・湯上の「不器用なので」。
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAyako Oikawa
posted2019/01/03 09:00
2018年6月の日本選手権でわずか30分の間に3回日本記録を更新した湯上。デフリンピックではメダルを獲得。
難聴は自分の世界に入る武器でもある。
湯上は先天性難聴を抱え、6年生の時に左耳に人工内耳を埋め込む手術を受けている。普段は耳にマイクの役割を果たす補助器具をつけており、補助器具が集めた音が人工内耳に伝わり聞こえるという仕組みだ。
試技の際には補助器具を外して投てきサークルに入る。
「補助器具を外すと周囲の音が聞こえなくなって、とても集中できます」
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周囲のざわめき、会場のアナウンス、ほかの種目の盛り上がり。何も聞こえない、静寂の世界に入る。聞こえるのは自分の息づかいと身体の声だけだ。
呼吸を整え、心身が一致した時に投げに入る。
自分の世界に入るために、難聴は決してマイナスではない。だが、そこにたどり着くまでに多くの困難がある。
補助器具は、周囲の音すべてを拾うマイクのような働きを持つ。隣の選手のおしゃべりの声、遠くにいるコーチや観客の声、後ろにいる審判の声。すべての音が耳に入ってくる。
「スタジアムでの選手紹介の時が困ります。隣の選手の動きで『次は自分が呼ばれる』と思っていても、アナウンスがぼやけて聞こえるので、聞き漏らさないように集中します。競技中も試技を飛ばさないように気をつけていますが、投げる前に疲れちゃうんです」
ほかの選手にとってはスムーズに進むことが、湯上にとってはストレスになる。
「音に関係する部分で疲れます」
聞こえない困難を乗り越え、武器にする。そんな世界で湯上は生きている。
同じ境遇の子に「大丈夫だよ」と。
陸上は「消去法」から始めたものだった。幼い頃は球技に興味、憧れを持っていた。しかし6年生の時に人工内耳を埋め込む手術を受けた後、医者からコンタクトスポーツを止められている。
でも、スポーツがしたい――。そう訴えた少年へ周囲は陸上競技を勧めた。
100mなど音に反応して行わなければならない種目は難しい。ある程度自分のペースで行えて、体格を生かせる種目が陸上の投てきだった。
「僕には陸上しかなかったんです。(難聴の影響でやれることの)道がどんどん狭まってきた。でも僕は陸上で頑張る道を見つけました。だから今はその道を追究しようと思っています」
ちょっと目を潤ませながら続ける。
「自分と同じような境遇の子に、『大丈夫だよ』って言ってあげたいんです」
力強く言い切った後、間をおいてこう続けた。
「僕が競技をしている目的は、夢、希望、感動を届けられる競技者になることなんです。ハンデを持っている人たちの励みになるような、強いメッセージを送ることができる選手になりたいと思っています」