ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
嵐のように生き、刃物のように闘う。
ダイナマイト・キッドよ、永遠に!
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byAFLO
posted2018/12/07 17:00
タイガーマスクと過酷な戦いを繰り広げたキッド。代償は大きかったが、リングに残したものも多かった。
リング内外で“危険”でありつづけた。
タイガーマスクとの一連の試合があれほどまでに人気を博した要因は、タイガーの華麗な空中殺法だけではない。ふたりの闘いは、常に緊張感に満ちた、ストロングスタイルの真髄ともいえる闘いだったことが、何よりの要因だ。
ひとたびリングに上がると、キッドから一切の妥協は消える。ケガのリスクを恐れない危険な闘いを自らに課すと同時に、それに対戦相手が対応できなければ、相手を壊すことも厭わなかった。だからこそ、一瞬の気の緩みも許されない、緊張感あふれる試合となったのだ。
またキッドは、試合以外でも常にファンの目があるところでは“爆弾小僧”であり続けるプロでもあった。ファンの前では一切の笑顔は見せず、サインを求める色紙を差し出されれば、その場で破り捨て踏みつける。
入場時に観客がふざけてコスチュームを引っ張ったりすれば、容赦なく殴りつけたことも1度や2度ではない。それらはすべてダイナマイト・キッドとしての危険なイメージを守るための行動であった。
「身体がパンクする予兆は……」
そしてキッドは自分がキッドであり続けるために、危険を顧みない激しいファイトを続けていく。こうした試合の連続は、キッドの身体を徐々に、そして確実に蝕んでいった。キッド自身、自伝で「俺の身体がパンクする予兆は、タイガーマスクとの抗争の頃からすでに始まっていた」と語っている。
しかも、キッドの身体を蝕んでいったのは、激しすぎるファイトだけではなかった。その最も大きな要因は、アナボリック・ステロイド(筋肉増強剤)をはじめとした薬物の乱用だったのだ。
当時のアメリカのプロレス界は、ハルク・ホーガンに代表されるマッチョなヘビー級レスラー全盛時代。いまでは考えられぬことだが、マット界にステロイドが蔓延し、多くのレスラーが当たり前のように使用していた。