野球善哉BACK NUMBER
甲斐キャノンの力を数字で知りたい。
「二塁送球1.8秒」の出所はどこか。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNanae Suzuki
posted2018/11/24 11:30
広島の機動力をシャットアウトしたソフトバンク。その中心は甲斐拓也だったが、投手たちの貢献も大きかった。
個人で計った数字はあるけれど……。
もちろん、個人で計測したデータはある。
筆者は、球場取材の際はストップウオッチを持参している。これは、先輩ジャーナリストの小関順二さんの影響を受けたものだが、今年の日本シリーズを例にとれば、取材ノートにはバンデンハークのクイックは速い時で1.17、遅い時で1.45とメモしてある。
そして甲斐のスローイングは、第6戦の1回裏に田中広輔、2回裏に安部友裕をアウトにした際はともに1.71秒だ。
もし筆者が計測した1.71秒が正しい数値だと仮定すれば、バンデンハークは相当ゆったり投球してもランナーはアウトにできることになろう。
だが、これはあくまで参考記録に過ぎない。筆者が手動で測った数字など、個人の記事で参考にすることはできるかもしれないが、一般的な信用度を持つものではない。手動である限り、その数字は公的な記録としての価値を持たないのだ。
スタットキャストのデータはあるはず。
では、公式の数値はあるのだろうか。
メジャーリーグを例にとると、あちらにはスタットキャストと言って「TrackMan(トラックマン)」や、「TRACAB(トラキャブ)」というデータを集積するシステムがある。
トラックマンは日本でも、11球団が取り入れていることで知られている。軍事用レーダー技術を転用した計測機器で、ボールの軌跡をかなり高い精度で記録することができる。投手のボールの回転数や角度、打球のボールスピードや角度まで多種の項目が数値化されている。
日本ではTRACABを取り入れている球団はないと聞いているが、それはともかく日本がメジャーと圧倒的に違う部分は、そのデータが公開されていないという事実である。
メジャーの中継を見ていると、好プレーがあった時に、そのプレーがどれだけすごいのかを数値で紹介する場面が多い。たとえばボールがバットに当たった瞬間から、内野手がどれほどのスピードでボールに追いついたか、などだ。
日本でもトラックマンデータを番組内で紹介するケースもあるにはあるが、ボールの回転数や打球の角度などに留まることが多く、直感的にプロのすごさが伝わりづらい。