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登れない悔しさが“達成感”を大きくする。
クライミング人口がどんどん増える理由。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byMiki Fukano
posted2018/11/30 11:00
世界で戦う人がジムにいる近さ。
「それはクライミングならではのもの」と、渡部さんは指摘する。
「クライミングは、それこそ世界で戦っている人がジムに来たりするので、意外と一般の方との距離が近いんです。うちだとユースの日本代表の子も来ることがありますが、常連の方と仲良く話していたりします。選手と一般の人がつながりやすいんですね。
また、壁を登ること自体は1人ですが、周りに見ている人たちがいる。それをきっかけに話をして仲良くなったりもする。言い方はおかしいですけど、全員がプレイヤーであり、(アドバイスをする)先生もいっぱいいるんです。そういうつながりが生まれるのも、身近に感じやすい、クライミングならではだと思います」
2020年の東京五輪で、「スポーツクライミング」として採用され、注目される機会も増えているクライミング。メダル候補選手が活躍することにより、メディアが注目し、一般生活者の興味喚起へ繋がっていることもクライミング人気を支えている要因の一つだろう。
だが、クライミングを楽しむ人が増加しているのは、そこだけに理由があるわけではない。
1人、課題と向き合い、クリアするために頭も働かせて、懸命に壁のホールドに手足をかける。
いつかクリアしたときの達成感はかえがたい経験となる。そのチャレンジを応援し、アドバイスする仲間がいて、祝福してくれる。
そんなクライミングならではの特徴と文化があって裾野は拡大してきた。それがクライミングという競技の、大きな支えになっているのだ。
午後7時をまわろうとする頃、スーツ姿の人々が姿を見せる。仕事帰りであろうその表情は、穏やかであり、楽しげだった。