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荒木雅博引退に思う。中日黄金期を
支えたアライバの「最高傑作」とは。 

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小西斗真

小西斗真Toma Konishi

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photograph byKyodo News

posted2018/10/12 11:00

荒木雅博引退に思う。中日黄金期を支えたアライバの「最高傑作」とは。<Number Web> photograph by Kyodo News

ドラゴンズ黄金時代の二遊間として堅守を誇った「アライバ」コンビだが、打線の1、2番としても絶妙のコンビネーションを見せていた。

超前進守備での井端のヒット。

 球団史上初の連覇を達成し、それを置き土産に落合博満監督が退任した2011年。9月23日のヤクルト戦(ナゴヤドーム)だ。

 2対2の8回。2死走者なしから荒木が左翼線への二塁打で出た。

 首位をいくヤクルトは、ひたひたと追ってくる中日になんとしてもこの試合で引導を渡したい。浅尾拓也、岩瀬仁紀がいる当時のリリーフ陣は盤石で、勝ち越されたら9回の攻撃はないも同然だ。

 そこでヤクルトベンチは外野手に超前進守備を命じた。俊足の荒木といえども単打での生還は許さないという陣形だ。井端の打球はわずかしかない内野と外野の間に落ちた。いや、正確には落としたのだ。

「荒木がかえってこられるのはどこかなと(考えた)。あとはもう、あいつなら何とかしてくれる。そう思っていました。だってそんな走塁を5回は見てきましたから」

 まるでゴルフのアプローチショットでもするように、井端は中堅の青木宣親のやや右前に落とした。ここに落とせば荒木は生還できるだろうという位置だった。

荒木の宙を飛ぶようなヘッスラ。

 井端がねらったところに落としたのだから、そこから先は荒木の仕事だ。本塁クロスプレー。荒木の体は宙に飛んでいた。ヘッドスライディングで勝ち越し点をもぎ取った。

「そうそう。(打者から見て)青木の左よりは右の方が投げづらいですからね。井端さんはああいうときに必ずやってくれる人。そう思って塁上にいたんです。僕、あのプレーのことはすごく鮮明に覚えていて、どうやって塁に出た、どうやって帰ってきた……。今でも頭に思い浮かびます」

 そこから打線はつながり、一挙4得点。ヤクルトとの差を2.5に縮め、いよいよ逆転優勝への気運が高まった意義深い勝利だった。そして2人の言葉からもよくわかるのだが、互いにどんな打撃をし、どんな走塁をするかがプレーの前にわかっていたようだ。

 こう打てば、あいつはこう走ってくれる。こう打ってくれるはずだから、自分はこう走ろう……。

「スタート、中間の加速、スライディング。走塁そのものもベストのものが出せた。そういう思いがあるから、引退の会見でもすぐに答えられたんです。それに優勝争いをしていたヤクルトとの直接対決だったこと、同点の終盤……。いろんな条件も重なっていたのでより強く覚えているんです。井端さんとの最高傑作……そうですね。そう思います」

【次ページ】 罰金と紙一重だが落合監督は。

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