ひとりFBI ~Football Bureau of Investigation~BACK NUMBER
右手にパッション、左手にロジック。
J2首位・松本山雅の“ソリイズム”。
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byJ.LEAGUE
posted2018/08/14 08:00
序盤戦こそ出遅れたものの、気づけばJ2首位に。松本山雅は着々とJ1復帰への道を歩んでいる。
「大然のスピードを舐めていた」
結果的に自陣の深いところまで侵入を許すと、クロスの処理を誤ってPKを与えてしまう。0-1。このままズルズルと行っていたら、それこそ「策士、策に溺れる」である。
しかし、今季のチームは転んでもただでは起きない。韋駄天の前田大然が縦パス1本から抜け出して、前半のうちに追いついた。
「近藤(直也=千葉の左センターバック)が大然のスピードを舐めていたということかも知れませんね」
反町監督は先にボールの落下地点に入っていた近藤の怠慢を指摘したが、端から千葉の左サイドに狙いをつけてもいた。実際、後半に奪った2つのゴールも「そこ」をしたたかに突いている。徹頭徹尾、相手の弱点を攻め立てるのが反町流というわけだ。
しかも、深く守った前半から一転、敵陣からも圧力をかけ、奪ったボールを千葉の浅いラインの背後へガンガン送り込む。シンプルだが、効果は絶大だった。
夏場でもハードワークできる凄さ。
後半の戦いぶりは実にロジカル(論理的)なものだったが、ベンチの企図をただ忠実に守るだけの冷徹なマシンとは違う。そこに血(情熱)が通わなければ、マシンは動かないからだ。いかにも松本山雅らしいパッションこそ、その動力源と言っていい。
そもそも、あの蒸し暑いなかで後半にギアを一気に上げられること自体、理にかなった話ではない。いくら籠城に徹した前半の戦い方を「省エネ」と言っても、さすがに限度があるだろう。
それでも圧巻の走力で千葉をやり込めてしまった。
消耗の激しい夏場の戦いではテクニックに勝るチームが優位――とも言われる。ハードワークを売り物にするチームが暑さにやられて走れなくなるというわけだ。しかし、松本山雅には、その理屈が当てはまらない。
それだけ普段から鍛え上げられていることの証でもある。実際、最後まで闘い抜く力、走り切る力を失えば、勝ち目は薄い。1人ひとりに、そんな覚悟もあるはずだ。