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欧州サッカーにロシアW杯の影響は?
ポイントは「極小エリアとスペース」。 

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田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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posted2018/08/12 11:00

欧州サッカーにロシアW杯の影響は?ポイントは「極小エリアとスペース」。<Number Web> photograph by AFLO

フリーキッカーとしてもヘディンガーとしてもミドルシューターとしても輝くロナウドは、サッカーの進化の最先端を走る存在だ。

練習時間の短い代表が効率よく勝つために。

 とはいえカウンターの流行は、あくまでもピッチ上で最終的に生じた「表相」に過ぎない。根底では、さらに大きな3つの変化が作用している。

 1つ目の要因は、選手の身体能力の進化だ。ボール支配率やオープンプレーにこだわらず守備を固めてカウンター狙いを徹底し、セットプレーの場面では高さと強さで勝負する。このようなスタイルが有効になったのは、体格と身体能力の向上に負うところが大きい。

 ベルギーのルカクに象徴されるように、190cmで94kgの体躯を誇りながら、ウイングも難なくこなせるモンスターが登場したのも同じ理由によるものだ。

 2つ目の要因としては、代表の強化に各国が本腰を入れるようになったことが挙げられる。そこで改めて有用性が認識された方法論こそセットプレーだった。

 クラブチームに比べれば、代表チームの練習時間は圧倒的に少ない。それでも結果を出そうとするのであれば、最も即効性のある方法を採用したほうがいいという解釈だ。

 この発想の転換が持つ意味は極めて大きい。

 実は2年前のEUROでは、クラブチームでさえセットプレーをものにするのは難しいのに、代表チームで磨きをかけることなど不可能だという議論が支配的だったからだ。その意味で今大会は、セットプレーの位置づけそのものに関して、従来と真逆の結論が導き出されたことになる。

NBAやNFLの影響を受けた新戦術。

 そして最も重要な3つ目の要素が、具体的な方法論の発見だ。いかに選手の身体能力が向上し、各国協会が代表チームの強化に励むようになっても、ゴールをこじ開けるノウハウがなければ、かくもセットプレーが猛威をふるうことはなかった。

 この点でよく引き合いに出されるのが、イングランド代表監督のガレス・サウスゲートである。彼がNBAやNFLを参考しながら、セットプレーの場面における独特な動き方(長身の選手がゴール前で縦一列に並び、ボールがフィードされるタイミングに合わせて、フリーでシュートを打てる人間を確保していく手法)を導入したことは、今やよく知られるようになった。

 そもそもNBAでは、サッカーにおけるペナルティエリアやゴールエリアに相当する場所で、激しい肉弾戦が行われる。パスワークやポジションチェンジ、あるいはスクリーンプレー(ブロック)によって、極小のスペースの中でフリーのシューターを創り出すノウハウは、NBAに一日の長がある。

【次ページ】 極小のエリアの中でスペースを作る。

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