草茂みベースボールの道白しBACK NUMBER
甲子園に出るための「外人部隊」と
呼ばれて。越境入学は是か非か。
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byKyodo News
posted2018/08/11 09:00
1-6と5点リードされた5回から反撃し、一時は7-6と逆転に成功したが、8回裏に2点を奪われて、逆転負けした益田東の選手たち。
プロを目指す「環境」を選ぶ選手と親。
甲子園に出て大学に進み、ドラフト指名という未来予想図を実現するための「環境」を選ぶのが選手と親。有望な選手を集め、甲子園に出ることで知名度を上げたいのが学校。両者の間にはスカウトはもちろん、ブローカーまがいの人物が介在することもある。
筆者は某有名校のスカウトを取材したことがあるが、学校の正規職員ではなく、安定した収入は得ていなかった。それでも有力選手がいると聞けば日参し、勧誘し、必要とあらば練習見学に連れて行く。
しかし、その選手の才能が豊かであるほど、ライバルも多い。甘言を弄したり、その高校OBのプロ野球選手のグッズを手渡したり……。そこまでやっても入学の保証はない。そして、頭を下げてきてもらった特待生に限って、伸び悩んだり故障で思ったような活躍ができなかったりするのだ。
そういうとき、家族や本人は例外なく「こんなはずじゃなかった。選んだ学校が間違いだった」と責任を転嫁する。これは実社会でもそうだと思うが、頭を下げられて入ってやった人材より、そこに入りたくてやってきた人材の方が絶対に役に立つ。自らの責任で選択した人生には、たとえ逆境に陥っても立ち向かう強さがあるからだ。
東大に入るために灘高へ行く少年もいる。
「だから外人部隊はダメなんだよ」という考えになるだろうが、ちょっとお待ちを。まずもって尋ねたいのだが、反対論者は越境を禁止できると思っているのか?
自分の夢を実現するためによりよい「環境」を求める権利は誰にだってある。「東大に入って官僚になりたい」という少年が、遠く離れた灘高校を目指す。これを禁ずる権利は何人にもないのと同じである。禁じたところで付属中学をもつ強豪校が得をするだけだ。つまり12歳の青田買いが横行する。
また高校バスケットではセネガルを中心とした外国人留学生が、駅伝ではケニアを中心とした留学生の実力が全国制覇に大きな影響を及ぼしているのは広く知られている。
今年、バスケットの外国人留学生が試合中に審判を殴り倒すという事件があった。暴力が許されないのは当然だが、その学校には少年の母国語(フランス語)を話す人間は誰もいなかったという。つまり、授業など論外。バスケットのためだけに来日させた「助っ人」の悲劇だったのだ。