JTバレーボール、大躍進の理由BACK NUMBER
JTサンダーズ「大胆な若手起用がチームの活性化を促す」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byTadashi Shirasawa
posted2018/05/31 11:00
入団1年目の井上航はサーブレシーブ成功率で レギュラーラウンド2位と大活躍。日本代表。
サンダーズの進化が第2段階に。
その試合はサンダーズの進化が第2段階に入った試合でもあった。ヴコヴィッチ監督は、まだ大学4年だった内定選手、小野寺太志を先発で起用したのだ。同じく内定選手の武智洸史もその後、先発に定着した。
その起用が当たった。守備力に長ける武智は、チームのサーブレシーブをさらに安定させた。井上、武智の2人が広い範囲をカバーすることで、武智の対角に入る山本将平の守備の負担が減り、持ち前の攻撃力を存分に発揮できるようになった。
身長202cmの高さがあり、全日本にも選抜されているミドルブロッカーの小野寺は、クイック、ブロックともに存在感を発揮した。エドガーの打数が多いものの、小野寺が入ってからはミドルブロッカーの打数が増えて攻撃のバランスがよくなり、相手ブロックが的を絞りにくくなった。
深津は「あの2人、特に小野寺は内定選手というより助っ人ですね」と笑う。
とはいえ、シーズン途中にレギュラーを2人も、合流まもない内定選手に入れ替えることにリスクもあった。しかし今季を世代交代の年と位置づけていたヴコヴィッチ監督は、それを承知で起用した。
「連携面のズレが起こるリスクはありましたし、実際にそういうミスは出ましたが、将来のためのリスクでした」
その時点のレギュラーの顔ぶれは深津、エドガー、山本、武智、小野寺、中島健太、リベロ井上の7人。この中で昨季もレギュラーを務めていたのは深津だけだ。
新たなサイクルの1年目としては満足。
レギュラーラウンドを4位で通過したJTは、2月に行われたファイナル6で快進撃。4勝1敗で3位に浮上し、ファイナル3進出を果たした。
決勝進出をかけて2位豊田合成と戦ったファイナル3では、大黒柱のエドガーが初戦の試合中に左足首の怪我で途中交代となった。だが代わりにオポジットに入った八子大輔が、60%を超えるアタック決定率でチームを牽引し、初戦を制した。
しかし第2戦は豊田合成に取り返され、ゴールデンセットはデュースの接戦となったが、わずかに、決勝には届かなかった。
試合後、悔し涙を流した小野寺は、「今年は先輩たちにこの舞台に連れてきてもらったので、来年は恩返ししたい」と誓った。
今季のVリーグの上位チームは、JT以外、数年間ほぼ固定されたメンバーで戦ってきた成熟したチームだ。それに対しJTは、新戦力をレギュラーに5人並べて3位に食い込んだ。指揮官は、5年後をイメージしてほくそ笑む。
「サンダーズの新しいサイクルの1年目としては満足している。今シーズンがスタートとなり、今後、金子聖輝や熊倉允といった選手もラインナップに加えながら、さらに成長していくでしょう。将来性はサンダーズの大きな強みです」
'17/'18シーズンは、常勝サンダーズの始まりの年だった――。このシーズンが、数年後にそう言われるようなターニングポイントとなるのかもしれない。