JTバレーボール、大躍進の理由BACK NUMBER
JTサンダーズ「大胆な若手起用がチームの活性化を促す」
posted2018/05/31 11:00
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Tadashi Shirasawa
「JTの将来を、私は楽観しています」
ヴェセリン・ヴコヴィッチ監督は、穏やかな笑みを浮かべながら言った。
2017/'18プレミアリーグで、8チーム中、最も若い先発ラインナップで戦ったサンダーズが見せた成長と3位という結果が、「楽観」の裏付けとなっている。欧州のクラブチームや代表の監督を長年務めた白髪の智将の言葉には説得力がある。
対照的に、過去2年間は指揮官が「苦い記憶しかない」と言う程のシーズンだった。
ヴコヴィッチ監督就任2年目の'14/'15シーズン、サンダーズはプレミアリーグで悲願の初優勝を果たした。しかしその翌年は5位、昨シーズンは7位と低迷した。
優勝時、守備やつなぎの中心となり、隙のないバレーの核だった2人、小澤翔と酒井大祐が抜けた影響は大きかった。3位だったサーブレシーブ成功率が、翌シーズンには8位と大きく落ち込んだ。
エドガーが大事にしたチームの和。
深津旭弘主将はこう回想する。
「負けが込むとみんなが人のせいにして、責任逃れをしてしまったことが一番悪かった。そこから勝ちに持っていけるような起爆剤もなかった。2年後には、優勝した頃の貯金もなくなり、自信も失いました」
そんな中で、中心選手だった越川優が昨シーズン限りでJTを退団した。優勝メンバーがまた1人去る。そのことが選手たちの意識を変えた。
「絶対的な存在がいなくなったことで、誰かに頼るのではなくチーム力で戦わなければという意識が生まれ、いい方向に作用したんじゃないか」と深津は言う。
今シーズンのサンダーズは、「脇役なんかいない。」というキャッチフレーズのもと、一人ひとりが個性を解放した。
そこで輝きを放ったのは新戦力だった。
攻撃では、オーストラリア代表オポジットのトーマス・エドガーが、身長212cmの高さを武器に、得点王を獲得する奮闘を見せた。最後に託して決めてくれる存在が現れたことは、他の選手たちに自信と余裕をもたらした。
しかもエドガーは、106kgの巨体だが動きが速く、守備も手を抜かない。劣勢の場面では周りを鼓舞し、オフには選手たちを自宅に誘って食事会を開くなど、自らチームメイトに歩み寄った。
「日本人の心を理解しようとしてくれるし、チームの和を大切にしてくれるのはすごく助かった」と深津は感謝する。