JTバレーボール、大躍進の理由BACK NUMBER
JTサンダーズ「大胆な若手起用がチームの活性化を促す」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byTadashi Shirasawa
posted2018/05/31 11:00
入団1年目の井上航はサーブレシーブ成功率で レギュラーラウンド2位と大活躍。日本代表。
井上が持つ「バレーセンス」とは。
一方、守備でチームを支えたのは新人リベロの井上航だった。サーブレシーブでは成功率2位の安定感を発揮。“読み”を働かせて拾うディグ(スパイクレシーブ)は、今季の粘り強いJTバレーの象徴となった。
指揮官が井上について語る時、「バレーセンス」というワードが度々出てくる。
「たとえば歌の才能がある人、という言い方をしますが、それと同じように、航は『バレーをする才能のある人』。彼はボールのゆくえを読む天性の感覚を持っています」
ヴコヴィッチ監督は確固たる哲学やシステムを持っており、そのシステムのもとでサンダーズを組織化してきた。
しかし井上には「ここにくる」という独自の“読み”がある。チームのミーティングで伝えられた井上がいるべき場所と、井上自身の“読み”が試合中に異なった場合、井上は自分の“読み”を信じて動く。
「待っていてもボールはこないので、自分から取りにいったほうが確率が上がるかなと思って」とあっけらかんと言う。
本来、チームの約束事は破ってはならないものだが、「彼は間違ったポジションにいるのに、気づいたらボールを拾っている」と指揮官も苦笑するしかない。
地元でのホームゲームでこみ上げたもの。
また、井上の、どんな時も変わらない落ち着き払った表情と態度が、周囲に安心感を与えた。
「顔にあまり感情が表れないのがいい。たとえ調子が悪くても、いつも一定の雰囲気で試合をしていたから、1年目の選手だからといって周りが気を遣うことなくできた」と深津は言う。
それは井上が心がけていることだ。
「自分の調子が悪い時は、正直、まったく楽しくない。でもそれは他の人には関係ない話。バレーボールはチームスポーツで、6人が近くにいるから、雰囲気が伝染するんです。だから常にコート上での立ち居振る舞いは一定にするようにしています。リベロは自分で得点できない分、雰囲気作りで貢献することも大事なので」
そんな井上が今シーズン一度だけ、どうしようもなく気持ちが昂った試合があった。それは広島市のグリーンアリーナで行われた今年1月6日のホームゲームだった。
井上は広島市出身で、小学生の頃からグリーンアリーナでJTを応援し、夢は「JTサンダーズの選手になること」だった。
「だからこのユニフォームを着てグリーンアリーナで出場した時は、『うわーっ』とこみ上げてくるものがありました」