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中村憲剛「今、日本で一番うまい」
大島僚太に、無理を通せる凄みが。
posted2018/05/17 17:00
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph by
Getty Images
あれは、2年前のリオデジャネイロ五輪を直前に控えた頃だっただろうか。
「アップのときのボール回し。あれがカギになるんですよ」
大島僚太がそんな風に話してくれたことがある。
川崎フロンターレが試合前のウォーミングアップで行うロンド(鳥かご)は、他のチームに比べると、かなり狭いエリアしか使わない。そしてエリアを飛び交うボールスピードも速い。だからこそ、大島はそこで自分の感覚を研ぎ澄ませているのだという。
「試合前だと6対4、普段の練習だと7対4でやっていて、4人がボールを追いかけてくる。実際の試合で4人がプレッシャーをかけてくる状況って、まずないですよね? 4人が奪いに来るということは、4つのコースが消されるわけで。それでもうまくやれているときは、試合でも落ち着いてできるんです」
ゴール前ならまだしも、広いフィールドでボールを持った瞬間に、4つの選択肢を消される局面というのは、そう多くないだろう。ならば試合前からその状況下で目や思考スピードを慣れさせておくことで、試合中は余裕を持ってプレーしやすくなる、というわけだ。
強めのパス交換も、いつもの光景。
準備は、さらに続く。
アップを終えた周囲のスタメン組が続々とロッカールームに戻っていくなか、時間ギリギリまでピッチに残ってコーチ相手に強めのパス交換を行い続けるのも、いつもの光景だ。かつては鬼木達コーチとやっていた儀式だが、鬼木が指揮官となった昨年からは久野智昭コーチがパートナー役を務めている。
「今日はどんな感じなのか、自分としてはボールを触っておきたいんですよ」とボールフィーリングを確かめてから、彼はゲームに臨んでいる。
そして試合が始まれば、相手の重心の逆を突いてプレッシャーを簡単に剥がし、たとえ相手が密集していようとも、繊細なボールタッチでかいくぐって突破していく。一見すると、隙などないようなコンパクトな守備ブロックであっても、卓越した目と技術を持つ大島にかかれば、綻びが生まれてしまうのである。大島の真骨頂は、ここにあると言っても過言ではない。