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ナダルやセリーナの関係者が続々と。
欧州テニスの最先端育成システム。
posted2018/05/02 10:30
text by
フローラン・ダバディFlorent Dabadie
photograph by
AFLO
私が子供の頃、ニック・ボロテリー・アカデミーは次世代テニスの到来を告げるものだと噂の育成システムでした。まるでテニスのNASAです。
'80年代初頭から終盤の選手(ジミー・アリアスやアーロン・クリックステイン)の“発射”はやや期待外れでしたが、第二世代であるアンドレ・アガシ、第三世代のマリア・シャラポワは大成功。グルであるボロテリー氏のカリスマや広大な敷地の充実した施設、アカデミー出身の選手たちが繰り広げるパワー・テニスの迫力、すべてが世界一でした。
一方、スペインのサンチェス・カサルやイタリアのボブ・ブレットなど、欧州のアカデミーは身の丈サイズでした。マラト・サフィンやスベトラーナ・クズネツォワらトップ・ジュニアも通っていましたが、アメリカのそれと比較すればビジネス的にはあくまで小規模です。
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ボロテリーのアカデミーは、IMGに買収されるとさらに知名度と実績をあげていき、ついには日本から錦織圭という貴石を見つけ磨き上げました。
しかし、創設者ボロテリー氏もいまや86歳、さすがに情熱と体力が永遠に続くわけではありません。いまではジュニア選手のスカウティング面でかつての圧倒的な支配力を失っている印象です。
ナダルの地元でのビジネス戦略。
実際、トミー・ハースと錦織以降、同アカデミーで育った選手が男女問わず大きな大会を制した例は見当たりません。東欧から優れた女子選手が次々と登場するなか、テニス・アカデミービジネスは新しいブームを迎えているのです。そこへ乗り出したのはある若きスペイン選手の家族でした。
現在、年収およそ34億円(フォーブス誌「世界で最も稼ぐスポーツ選手ランキング2017」より)のラファエル・ナダルは、レアル・マドリーと同様にスペイン・スポーツ界の高級ブランドです。
彼の巨大な売り上げを地元のビジネスに還元する方針は、当初からラファエルの父セバスチャンのビジョンにありました。14世紀から地元マヨルカ島の名門であるナダル家は、観光業やエネルギー業に投資し、現在はバレアレス諸島のドンになりました。しかし、その野望はなお満たされず、グローバルなビジネス戦略を抱くようになります。キーワードは「世界最大の育成システム」でした。