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三重に敗れた日大三、志は買いたい。
小倉監督が与えた実戦経験の価値。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2018/03/29 17:30
継投策がハマらず敗れた日大三。強豪校だからこその葛藤だったのかもしれない。
複数投手の育成は非常に難しい。
近年の甲子園では複数投手の育成が叫ばれるようになったが、実際に運用できている学校は一握りだ。
どのチームも多くの投手をベンチ入りさせているものの、いざ起用となると二の足を踏むことが多い。2回戦の静岡vs.駒大苫小牧で、7点ビハインドの駒大苫小牧が投手を準備させておきながら、最後までエース大西海翔の続投にこだわる場面があった。
ただ、投手の育成を考えれば、ブルペンで投げているだけで成長するわけではない。実戦経験こそ、選手にとって大きなプラスになる。「甲子園という舞台は1+1ではなくて、1×2、1×3と掛け算になるくらい選手を成長させる」と大阪桐蔭の西谷浩一監督が話していたが、大舞台の経験が進歩につながることもある。
勝利と育成の狭間で腹をくくる必要性。
周知のように、高校野球の大会の多くはトーナメント戦方式で実施されている。
そのため「負けられない」戦いが続き、どうしても選手起用は慎重にならざるを得ない。選手に経験を積ませるというより、リスクの少ない戦い方を選択するシステムになっている。つまりトーナメント制が、投手の育成に大きな壁となっているのだ。
だが、システムに嘆いたところで進歩はしない。勝利と育成の狭間で、指揮官が腹をくくることも場合によっては必要なのだ。
結果論で言えば、この日の小倉監督の選択は確かに敗北につながったかもしれない。だが選手の成長には確実につながったはずだ。
「井上が3点を取られたあとだったので、自分が投げて流れをこっちに持ってこようと思ったんですけど、変化球もストレートも高めに浮いてしまった。自分のせいで負けてしまって、申し訳ないです」
林はこう敗戦の弁を語ったが、その表情は決して後ろ向きなわけではなく、これからの糧にしたいという決意を感じさせた。