野ボール横丁BACK NUMBER
監督の采配で勝つのは限度がある。
日本航空石川が示す、信頼関係の力。
posted2018/03/30 14:30
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Kyodo News
「こうやって負けていくんだな……と思った。これが名将なんだなと」
日本航空石川の中村隆監督は振り返る。
3回戦の相手は、前の試合で春夏甲子園通算50勝を挙げた馬淵史郎監督率いる明徳義塾だった。
試合は、明徳の先発・市川悠太と、航空石川の先発・杉本壮志の緊迫した投手戦となり、7回まで0-0のまま。
8回表、1アウト二塁のピンチで、中村監督は「手足がつって限界だった」と杉本をあきらめ、大橋修人にスイッチ。しかしその大橋は、次打者にヒットを許して一、三塁とピンチを広げたところで、暴投で1点を献上してしまう。
「大橋はかたかった。ボールが抜けてましたね……」と中村監督。やむを得なかったとはいえ杉本を引っ張り過ぎ、二番手投手に負担をかけてしまった。
9回裏、1点を追う航空石川はライト前安打、四球でノーアウト一、二塁のチャンスをつかむ。ここで、中村監督が「本能的な打者」と評価する3番・原田竜聖を迎える。
明徳が伝令を送っている間、中村監督はネクストバッターズサークルにいた原田に「バントするか?」と尋ねる。すると、原田は即答した。
「打ちます」
「なんでそんなこと聞くんですか?」という顔。
中村監督が明かす。
「90パーセント以上、『打つ』っていうだろうなと思って聞いたんですけどね。少しでも、ここはバントでしょうと思っていたら嫌なので、いちおう聞いたんです。でも『なんでそんなこと聞くんですか?』って顔をしてましたね。あの強気がいい」
じつは、中村が原田に「バントするか?」と聞いたのは、2度目だった。昨秋の神宮大会、日大三との1回戦はタイブレークに突入した。ノーアウト一、二塁とまったく同じシチュエーションで、そのときも原田は「打ちます」ときっぱり言って、初球、ライト前ヒットを放っていた。