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主力を抜かれても「ノープロブレム」。
岐阜と大木武“持たざる者”の流儀。
text by
渡辺功Isao Watanabe
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2018/03/15 11:15
FC岐阜の過去最高順位は、2009年のJ2で12位。大木体制2年目、スタイルが浸透してきた手応えはある。
セオリーと違う戦術に戸惑う選手も。
勝つことと同時に勝ち方にもこだわる大木サッカーは、速い攻守の切り替え、前から奪いに行く覚悟、90分間休みなくプレーすることが生命線になる。今シーズン、広島から新加入し、開幕から右サイドバックで先発する長沼洋一は合流当初、困惑を覚えたそうだ。
「インサイドにポジションを取るような、セオリーではないサイドバックの動きもしなくてはならなかったり。前からハメに行く守備で自分だけ遅れたり。正直最初は手こずりました」
それでも「チャレンジ&カバー」「リスクマネジメント」といった“セオリー”が刷り込まれてきたキャリアの長い選手たちより、変に凝り固まっていない分、若い選手のほうが早く順応できるのかもしれない。そうした傾向は京都時代の1年目にも見受けられた。
しかしながら、福岡相手の開幕戦は前線に動きがなく、まるでスイッチの入らない低調な内容に終始する。
2節の横浜FC戦では、プロ2年目の18歳(当時)、この試合がデビュー戦となる島村拓弥を「ボールが入れば、ひとり、ふたりは剥がせるので。そこに期待して」(大木監督)3トップの右に起用したのだが、本領発揮とはいかず。
若さは武器にもなれば、脆さにもつながる。
傑出したストライカーなしで点を獲る。
ようやく今シーズンの初ゴールが生まれたのは、千葉戦の34分だった。
裏のスペースに抜け出した古橋亨梧が左サイドから中央へドリブルで持ち込み、GKとの1対1。よしっ、シュートだ……と、誰もが思ったタイミングで、プレゼントするような横パスを出した。その先には、逆サイドから田中パウロ淳一がペナルティーエリアに走り込んで来ていた。
完全に意表をつかれた相手GKもDFも対応が後手にまわる。あとは田中が左足でミートするだけだった。
このゴールシーンについて、大木監督は「ボールを持っている選手も、もしかすると(シュートを)撃てるかもしれない。そういうなかで、選手がもうひとりちゃんとサポートに走っていた」ことを評価した。
シュートの精度は一朝一夕に高まらない。がむしゃらに撃ったシュートがブロックされて、はね返ったところから一気にカウンターを受けることもある。ならばシュートを撃てる選手にサポートの選手を加え、相手GKとの2対1の局面をつくりにいく。もっと言えばGKさえも外して確実に仕留める。そのほうがゴールの確率は高まるのではないか。
年俸の高い傑出したストライカーを持たざるチームが、どう点を獲りにいくのか。田中のゴールは目指すひとつの理想が、形になっていた。