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メダルを逃したことで気づけた真実。
竹内智香「オリンピックの価値って」
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2018/03/03 08:00
日本人離れしたスポーツ観を持つ竹内智香。フェアにフラットに、彼女は次の戦いをもう始めている。
竹内をずっと励ましてきた44歳の名選手。
レース翌日。竹内はある選手とお茶をする約束をしていた。
オーストリア代表のクラウディア・リーグラー。44歳でこの五輪に出場する有名選手で、今大会もメダルが期待されていた実力者。しかし予選のレースで転倒してしまい、あえなく敗退となってしまっていた。
「すごく落胆していましたね。私は今季は調子が悪くて苦しみながら五輪に来たけど、クラウディアはベストの成績を出しながら迎えた。周りはもちろん、彼女自身もメダルを期待していたと思う。
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私は不調な時も、ずっと彼女から言葉をかけてもらっていた。『トモカ、勝負はオリンピックだから大丈夫。あなたは大一番に強いでしょ』って。でも、いざ落ち込むクラウディアを前にして、私は気の利いた言葉をかけてあげられなかった。ただ見つめ合って、相槌をうって。その時間を共有してあげることしかできなかったです。
もちろんオリンピックだけでなく、W杯も含めてどんな試合もすべて大切。でも普段の連戦で調子が悪い人と、4年に1回しかない舞台で結果を出せなかった人では、やっぱり重みは違う。それを理解しているからこそ、簡単に励ます言葉なんてかけられなかったんです」
話を聞いていて、逆に選手としての竹内の器量を見た気がした。
平昌で5大会目の五輪。約20年間、一線で戦ってきた。
確かに彼女にとっては初めて金メダルだけを目指して戦った五輪だったかもしれないが、そこで敗れた自分だけが悲劇に直面したのではない。同じベテラン選手が味わった大きな悔恨に触れ、竹内は勝負の世界で生きてきた仲間を慮り、同時に自分の価値も噛みしめることができたという。
銀メダルを取って引退していたら……。
「もちろんアスリートである以上、勝たない限り誰も納得しないし、できない。そこに言い訳もお涙ちょうだいもないです。金メダルを取れなかった悔しさは、一生消えないと思います。
でももし、ソチで銀メダルを取った時点で引退していたら、私は競技人生の有り難さや、何よりオリンピック自体をもっと甘く見ていたと思うんです。今回、初めて金メダルというブレない目標を定めて4年間やってきたけど、それがどれだけ難しいことかもあらためてわかった。
やっぱり長年やればやるほど、いろんな選手の背景も見えてくる。私が負けたことだけじゃなく、クラウディアの結果を見ても、『これが、オリンピックなんだ』と痛感したんです。
だから、余計にこの難しい舞台にこれまで5大会出てきたことを誇りに思えるようになりました。私の中には、今まで自分がやってきたことや残してきた結果が素晴らしいものだという価値観がなかった。ここまでも、金メダルを取れる手応えがなければ引退すると思ってやってきた。
でも、負ける選手がいるから勝つ選手がいる。当たり前ですけど、ほとんどの選手がメダルを取れない。私は前回メダルを取ったことで、さらに周りには応援してくれる人たちが増えて、他のライバルとも一緒に前向きにこの競技を楽しめて戦い合えた。きっと、平昌五輪を経験しなければ、私はこの大切さに気づけていなかったと思います」