One story of the fieldBACK NUMBER
「サク越え」を数える意味はあるか。
元記者が伝えるキャンプ報道の裏側。
posted2018/02/15 16:30
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Kyodo News
プロ野球のキャンプが始まった2月上旬、知り合いの編集者に尋ねられた。
「毎年、思うんですが……。この『サク越え』の数って、どういう意味があるんですか?」
この時期、スポーツ紙を中心に各球団の様子を伝える記事の中には毎日、必ずと言っていいほどこの単語が出てくる。これは打者がバッティング練習などでフェンスの向こうへ飛ばした打球のことで、つまりはホームランなのだが、試合ではないので「サク越え(柵を越える)」と表現される。
特に注目の打者などが何スイング中何本、ホームランに相当する打球を放ったかなどを伝えるために用いられている。
編集者の言葉は言外に「この数字、意味あるんですか?」という響きを含んでいた。確かに、「ソフトバンクの柳田が50スイング中10本のサク越えを放った」という記事を読者がどう捉えるのかは疑問に思う。
それがメインテーマでなかったとしても「ジャイアンツの坂本が40スイング中5本のサク越えを打った」と書かれていたら、どう反応していいかわからないのが正直なところだ。おそらく編集者も戸惑っているのだろう。
ただ、なぜか、私は「サク越え」を否定する気にはなれなかった。むしろ、無意味なのでは? と思っている人がいたら、そういう人にそうではないことを説明したい衝動に駆られていた。
練習風景から伝える価値があるものを。
「キャンプ報道で読者が知りたいのは選手の評価なんだよ。誰が今年のレギュラーなのか。誰が4番で、誰がエースなのか。新戦力はどんな選手なのか。でも目の前でやっているのは結果の出ない練習なんだから、その中からいかに客観的評価の材料を見つけ出すか。そのために俺たちは、サク越えを数えたり、球数を数えたりするんだろ」
これはかつて、私がプロ野球キャンプの現場でライバル他紙の先輩記者から聞いた言葉だ。来る日も来る日もバッターのスイングやフェンスの向こうへ飛んだ打球を数えることに飽き飽きして、「これ、意味あるのかな……」と漏らした私に、その人は理論立てて説明してくれた。