サク越えを数えているうちに、見えてくるものがある。

　そう。そうなんだ。記者は客観的事実を求めて、スタンドから打球を追う。例えば、清宮幸太郎が100スイング中90本のサク越えを放ったら、これはニュースなのだ。

　しかし、実際にそんなことはほとんどない……。30、40分かけて1人の打者の打球の行方を数えても、大抵、手元に残るのはどう判断していいのかわからない数字だけだ。

　徒労感を引きずったまま、それでもまた記者は数える。ただの練習から伝えるべき材料を探し出すために……。すると、次第に見えてくるものがある。

　ある年、長打力を期待されて入団した新人選手がいた。彼はキャンプの初日に、誰よりも多くのサク越えをかっ飛ばした。各紙が大々的に報じ、監督も大きな期待を口にしたことで、チームの誰よりも注目を浴びることになった。

　ただ、キャンプが進んでいくと足腰に疲労がたまり、サク越えの本数は日ごとに減っていく。それでもメディアは数えるのをやめないし、彼は躍起になってフェンスの向こうへ飛ばそうとする。すると、ますます打球は飛ばなくなる。見かねたその選手の担当スカウトが、私にこう言った。

「サク越えを数えるのをやめてやってくれよ……。あいつ、このままじゃバッティングを崩して、自分を見失っちゃうから」

　スカウトの心配は現実になった。期待の新人は結局、一軍のグラウンドに立つことのないまま、数年後にユニホームを脱いだ。

打撃理論やフォーム改造を知る機会に。

　またある時は、実績抜群のスラッガーがFAで移籍してきた。バッティング練習が始まる。いくつノートに「正」の字を書かねばならないか、と心配してスタンドに陣取ったが、フェンスを越えた打球は1本もなかった。

「俺のサク越えを数えても無駄だよ。バッティング練習の時は、別の目的があるから」

　それをきっかけに彼の打撃理論を覗くことができた。

　こんなこともあった。ある選手が打撃練習を終えた後に、聞いてきた。

「いつも俺の打撃を見てて、何か変わったこととか、気づいたこととかない？」

　その選手のバッティングを見続けている中で、シルエットの変化を感じていたので、それを告げると、彼はなぜ、その改造に至ったのかを説明してくれた。

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