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最速マシンでベッテルが犯した失態。
敗因はハミルトンではなく強迫観念。 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byHiroshi Kaneko

posted2017/12/17 07:00

最速マシンでベッテルが犯した失態。敗因はハミルトンではなく強迫観念。<Number Web> photograph by Hiroshi Kaneko

第16戦日本GPではパワーユニットのトラブルで、わずか4周でリタイア。ベッテルの自力王者の可能性がここで消滅した。

フェラーリが失望したアゼルバイジャンGPでのミス。

 そして、ベッテルは第8戦のアゼルバイジャンGPでミスを犯した。セーフティカーの後方を2番手で走行していたが、再スタートの瞬間にタイミングを誤ってトップのハミルトンに追突してしまう。

 ハプニングはそれだけにとどまらなかった。ハミルトンにブレーキテストで急減速されたと感じて平常心を失ったベッテルは、直後にハミルトンのマシンに並びかけ、幅寄せして再び接触してしまう。

 この行為が審議の対象となり、ベッテルはストップ&ゴーのペナルティが科せられて優勝圏外へ脱落してしまった。ハミルトンもその後、ヘッドレストが外れるというトラブルに見舞われ、ベッテルよりも1つ下の5位に終わったため、数字的にはそれほど大きな痛手にはならなかった。ただレース後にFIAに呼び出されるなど、精神的に負ったダメージは想像以上に大きなものとなった。

 それは本人も認めている。「今シーズン、最も辛かったのは、アゼルバイジャンGPの後だった」と。

 カペリによれば、「アゼルバイジャンGPでのベッテルの失態には、フェラーリも大きく失望していた」という。

ヴィルヌーブが指摘した「強迫観念」。

 さらにこの事故によって、「ベッテルは自分で自分にプレッシャーをかけることとなったのではないか」と分析するのは、'97年のワールドチャンピオンであるジャック・ヴィルヌーヴだ。そして「(第14戦)シンガポールGPでの接触事故の遠因となったのではないか」とも推測した。

「ポールポジションからスタートしたベッテルは、フロントロウから好ダッシュを決めたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)を意識しすぎて接触してしまったけれど、あのレースではたとえ優勝していなくても、ハミルトンの前でフィニッシュしさえすれば良かった。にもかかわらず、あのような接触事故を犯したのは、アゼルバイジャンGPを落としたベッテルが『シンガポールGPでは絶対に勝たなければならない』という強迫観念にとらわれていたからだとしか考えられない」(ヴィルヌーヴ)

【次ページ】 「1年通して強かったことが、僕の心を苦しめた」

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