野球善哉BACK NUMBER
中村の2本目は、外の直球だった。
天理・碓井はなぜ首を振ったのか。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/08/22 17:30
「中村奨成が大会6本目のホームランを放った相手」ではなく、碓井涼太という名前を覚えておきたい。
インコースのシュートをホームランにされ……。
初回、先頭打者の高田誠也は、碓井のストレートを狙っていたという。
「僕はスライダーを捨てていました。インコースの球をどう打っていくか。あの球を打っていくことで、相手は投げる球がなくなると思った。僕の役目は、ランナーのいる状況で中村に回すことでした。そうすれば打ち崩せるかなと思った」
言葉通りにインコースのシュートを内野安打にし、犠打で二塁へ進んで中村にチャンスを演出する。
碓井が中村に投じた初球はインコースのシュート。これを中村が一閃、バックスクリーンへ放り込んだ。
捕手の城下がこのシーンを回想する。
「やっぱり中村君はすごいなと思います。打ったこともそうですけど、走者を置いた場面で打席が回ってくるのは、そういう選手なんだなと思います。意識しないでおこうと思ってもやっぱり中村君を意識しますし、その中でもチャンスで打席に立って、そして1球で仕留めてくる。かわしても抑えられるバッターではないと思っていたので、強気に行ったんですけど、相手の方が一枚上でした」
中村の先制ホームランで幕が開いた試合は、その後、点の取り合いとなった。
そして天理の1点リードで迎えた5回表に、碓井がインコースのサインに首を振って投じた外のストレートを、中村が2本目のホームランにした。碓井からすれば、敗北を認めざるを得ない瞬間だっただろう。
「知らず知らずのうちに弱気に……」
碓井は6回途中、同点でマウンドを降りた。中村監督は「少し球が高かったというのは試合当初から感じていたんです。あまりよくなかった」とその理由を語る。しかし後続の投手が打ちこまれ、9-12で天理は敗れた。
なぜ、碓井は首を振ったのか。
悔しさをかみ殺し、こう言葉を絞り出した。
「知らず知らずのうちに弱気になってしまっていたのかもしれません」
インコースを巡る攻防――。
立ち向かっていった広陵打線が制して10年ぶりの決勝進出を決めた。