新刊ドラフト会議BACK NUMBER
明治時代にも存在した、野球馬鹿の熱血物語。~「へへ。大の大人が、物好きなことでやんすねぇ」~
text by
西澤千央Chihiro Nishizawa
photograph bySports Graphic Number
posted2017/08/22 07:00
『球道恋々』木内昇著 新潮社 2100円+税
「馬鹿につける薬はない」と言うけど、野球馬鹿につける薬はもっとない。うちの中一の野球部息子は朝練して放課後練習して土日試合してたまの休みにどこに行くのかと思ったら近所のグラウンドで友だちと野球。まぁ馬鹿である。そういう私は仕事をほっぽらかしてベイスターズの試合を見ている。大馬鹿である。
野球馬鹿の系譜、どうやらこのスポーツが遠い異国からやってきた頃から大して変わっていないようだ。『球道恋々』は明治末期、東京帝国大学の予科であった旧制一高野球部を舞台にした野球時代小説。同校野球部出身で、今は業界紙の編集をしている宮本銀平に野球部コーチの話が舞い込むところから、物語は始まる。栄光の歴史を築いてきた一高野球部のコーチに、現役時代は万年補欠の銀平がなぜ選ばれたのか。そこには深い理由があって――。