野球善哉BACK NUMBER
甲子園開幕戦、サヨナラ劇の裏側。
彦根東がこだわった“一、三塁”の形。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2017/08/08 17:30
波佐見の捕手・山口裕聖のタッチをかいくぐった彦根東の原晟也。今夏の甲子園は、劇的な展開で幕を開けた。
同点に追いついてからの4番の一打で二塁走者は……。
そして迎えた一、三塁の場面で、彦根東はヒットエンドランを仕掛ける。一塁走者だけがスタートを切り、打者はゴロを打つ。三塁走者は打球が転がるのを見て、ホームに生還した。
1点を取る有力な方法と言えばスクイズだが、打者の朝日晴人が左打者であるため、捕手から作戦が見抜かれやすい。だからこそリスクを最小限に抑えて、同点に追いついた。
続く3番の高村真湖人が四球で歩いたあと、サヨナラのチャンスで4番・岩本道徳がライトにヒットを放つ。
今度は、二塁走者に自重する雰囲気はなかった。
「ランナーの原晟也には、ヒットが出たら勝負を懸けろと伝えていた」と中井が言えば、二塁走者の原晟也も「この場面で本塁へ突っ込むことは共通認識だった」と語った。
完璧なバックホームに対して回るように滑り込み生還。
守る波佐見も最善のプレーを見せた。守備位置が浅かったこともあって、右翼手からの送球は6.39秒でホームに届く、ほぼ完ぺきなものだった。高校野球では、バットに当たってから6.8~7秒以内でホームに転送できれば、二塁からの本塁生還をアウトにできると言われている。右翼手・田中はそのタイムをはるかに上回るスローイングで返球してきたのだ。
三塁ベースを蹴った時点で、右翼手の体勢を確認した原晟也は「アウトのタイミングになるかもしれない」と必死に走ったという。
実際、田中の送球は逸れてはいなかった。しかし、コリジョンルールもあるため捕手がホームベースの遥か手前で捕球。そこから本塁タッチにいったが、原晟也は回り込んで滑りこんだのだった。
原晟也は言う。
「コリジョンルールが始まってから、ライトからの返球、タッチは少し遅れるので、外側からホームに入る練習をやってきた。いつも通りのことがしっかりできた」