野次馬ライトスタンドBACK NUMBER

「僕らはね、人類を進化させたい」
西麻布のジムが掲げる異質の野望。 

text by

村瀬秀信

村瀬秀信Hidenobu Murase

PROFILE

photograph byHidenobu Murase

posted2017/06/28 08:00

「僕らはね、人類を進化させたい」西麻布のジムが掲げる異質の野望。<Number Web> photograph by Hidenobu Murase

西麻布という町にそびえる「人類を進化させるジム」。案外開放的な外見の裏に、強烈な思想があるとは……。

アスリートに存在価値を認めさせ続けるために。

 このクラブで幹となるものは身体の部分であるトレーニングに加え、スポーツ科学を応用した「ヨガ」。そしてスポーツ科学と鍼灸などの東洋医学、ヨガを組み合わせた「ケア」の3つを軸としたアプローチである。だが、入会待ちになるほど人が押し寄せてくるのは、それだけが理由ではない。

「彼らが“よくなること”をありとあらゆる方面から探るというのが僕らの特徴です。それぞれの球団にはトレーナーもいればトレーニング施設もあります。その上でわざわざお金と時間を使って来るわけですから、そこには別のプラスになる要素が求められる。IQの高い人は、情報も方法論も持っています。彼らには『うちで得るものがないと思ったらやらない方がいい』と言うんです。その分、必死ですよ。彼らに何が必要かを考え、与え続けられるか。そのための努力をし、進化し続けるのが僕らの存在価値ですからね」

 “存在するなら、進化しろ”。

 それがデポルターレクラブのスローガンだ。教科書的に決められたプログラムを義務感で行わせるだけのトレーニングは許さない。毎年毎年、選手名鑑に「今年こそ飛躍の年にしたい」と書き続けることを、許さない。

腸内細菌、神経物質まで考える必要がある。

 心・技・体。様々な観点から問題点をあぶり出し、ロマンを本物へ進化するようありとあらゆる手段を講じて導いていく。それは時に、トレーニングの枠をも飛び越える。

「例えば現在注目しているのは、腸内細菌ですね。日本でこそまだ注目度は低いですが、欧米や中国などでは巨額資金が研究に投資されている分野であり、腸では神経伝達物質のセロトニンの多くが作られているなど、多くの部分で脳と連動していることが解明されはじめています。

 アスリートの世界でも『大舞台でも平常心でいられる』というメンタル的な部分が、その人が持つ腸内細菌による影響であることがわかってきました。うちに来ているアスリートは皆、腸内検査をして数値を計っています。そこから適切な腸内細菌を入れてやれば、メンタルやコンディションを整えることに役立ちます」

 なるほど。山田哲人が大舞台に強いのはビフィズス菌のおかげ……なのかもしれない。

「トレーニングというものはバイオロジー、生物的な強さをどうやって高めていくかということ。僕らはそこにプラスアルファでテクノロジーをどうやって融合させていくかということも目指しています。腸内検査もそうですが、米国のある研究機関に尿を送れば、神経伝達物質がどこで滞っているかも判明するようになりました。それがわかれば、必要な食べ物がわかるし、調子が悪くなる原因も科学的に解明できるようになる。

 技術の進歩は日進月歩です。アメリカ西海岸あたりでは、テロメアという細胞の寿命を司る構造物を人為的に伸ばす技術も生まれている時代です。脳のデバイスに電流を流してニューロンという神経細胞と筋肉を繋ぐ粘度をよくしてパフォーマンスを上げるとか、テクノロジーの発達によって可能性は広がっていきますし、アスリートの形もどんどん変わっていく時代になるでしょう。僕らはそういうニーズにも応えられるよう、あらゆる最新の知識を仕入れ、専門家とも連携していかなければいけないと考えています」

【次ページ】 朝まで酒を飲んで、という時代は終わったのだ。

BACK 1 2 3 4 5 NEXT
古木克明

他競技の前後の記事

ページトップ