野次馬ライトスタンドBACK NUMBER

「僕らはね、人類を進化させたい」
西麻布のジムが掲げる異質の野望。 

text by

村瀬秀信

村瀬秀信Hidenobu Murase

PROFILE

photograph byHidenobu Murase

posted2017/06/28 08:00

「僕らはね、人類を進化させたい」西麻布のジムが掲げる異質の野望。<Number Web> photograph by Hidenobu Murase

西麻布という町にそびえる「人類を進化させるジム」。案外開放的な外見の裏に、強烈な思想があるとは……。

朝まで酒を飲んで、という時代は終わったのだ。

 ……今、気がついたのだが、野球は随分と未来に来てしまったようだ。朝まで酒を喰らい、寝ないで完封をしてしまうような豪傑をプロ野球選手と呼んだ時代は化石となった。バイオロジーとテクノロジーの融合、アストロ球団が現実のものになる日も近いのかもしれない。

「それでも最先端のテクノロジーばかりに偏っていてもダメなんですね。伝統的な部分にも大事なことはたくさんある。身体の健康もバランスが大切。僕らは最先端と伝統の真ん中に健康があると考えます。何物にも偏らない“中庸”というものが最も大事なんです。柔と剛。北斗の拳でいえば剛のラオウと柔のトキがいても、両方を備えたケンシロウが一番強いじゃないですか(笑)」

 柔と剛、ヨガとトレーニング、テクノロジーと伝統……。極端に偏らぬよう中庸を心がけながら、本当に“いいもの”だけを取り入れる。

 しかし、専門外の分野であっても最新の情報を手に入れる。そんなことが何故できるのか。できるのだという。西麻布という街では。

「僕自身、トレーナーとしてこの街でずっと生きてきて、この街に蠢く様々な人間や世界を見てきたおかげで“本物”の目利きができるようになりました。うちのトレーナーでも、1人1人得意分野に秀でた専門のプロフェッショナルが揃っています。それらを総合して、この選手には何が足りないか、というのを見極めオーガナイズしていく。

 それはトレーニングの分野だけじゃなく先ほどのテクノロジーの分野であり、まったく他ジャンルのことでも同じ。良くなるポイントって人それぞれ違います。それをクリエイトするのが僕らの仕事。誰と誰を引き合わせたらいい影響を受けるか。逆に悪い女やタニマチと付き合ってたら、調べ上げてひっぺがすのも仕事だと思っていますしね。それに、このジムには各界の第一線で活躍する本物の人たちが多く所属しています。そのネットワークがあれば、お互いによい効果を生み出せる引き合わせができますから」

「タニマチ社長と引き合わせてチヤホヤされても……」

 西麻布。選ばれし者だけが足を踏み入れられる紹介制のジム。そこにはアスリートだけではなく、文化人、芸能人、青年実業家に経営者、会社重役、さらには医療従事者から農業、世界を股に掛けるデザイナーからハイパーメディアクリエイターまで。そこから派生するものも含めれば、おそらくこの国のありとあらゆる人脈が揃ってしまう場所。

「野球好きのタニマチ社長と引き合わせてチヤホヤされても、本当に得られるものは少ないと思うんです。でも、ここでは特別扱いはありません。全員が特別、各界の第一線で戦っている本物です。そこから得られるものは、狭い野球界の中だけの価値観でなく、社会から自分たちがどうやって見えているか。自分たちに何が求められているのかを客観的に理解できるなど、選手としても人間としても大きなプラスにつながっていくはず。人生はグラウンドの中だけじゃない。いろいろと起こるじゃないですか。大きな悩みから些細なことまで、その人のパフォーマンスの足を引っ張る要素であれば、何が何でも取り除いていく。そういうところまでケアすることが理想です」

【次ページ】 今も昔も、社交場にとびっきりの情報が溢れる。

BACK 1 2 3 4 5 NEXT
古木克明

他競技の前後の記事

ページトップ